ラグビーリパブリック

名手たちは淡々と準備。クボタの「クロッツ」、守備でチームをリード

2020.03.13

南ア、オーストラリア、NZ。世界トップ選手が集うチームで外CTBに入る(撮影:大泉謙也)

 3月中の試合が開催されないことが発表され、4月からの開催も不透明な状態だが、各チームでは粛々と、来るべきリーグ再開に向けて準備が進んでいる。

 3月上旬の火曜日、ラグビーマガジン連載「解体心書」の取材で訪れた船橋市のクボタスピアーズのグラウンド。選手たちは開け放したトレーニングルームで、激しいメニューに取り組んでいた。それぞれの表情は真剣と言うより必死で、目の当たりにすれば「リーグの中断でモチベーションの維持は…」などと簡単に口にできない光景だった。

 取材を受けてくれた名手、オールブラックスのライアン・クロッティは朗らかな表情で現れた。

「いくつかの中止試合については残念だけれど、トップ4に負けない手応えは掴んでいる。僕は戦績はもちろんのこと、チームにカルチャーを作りたいと思っている。たとえだけれど、才能を抱えるチームでも、そこに文化がない場合がある。必ずしも最高の才能が揃っていなくても、文化があればチームは戦える」。チームメートたちの素晴らしい資質と、チームへのプライドを語ったあとで、クロッティは噛み締めるように話した。

 あなたの場合は、どのようにクボタのカルチャーを高めていくのですか?

「このチームには選手だけではなく、スタッフに熱がある。プロラグビー選手として、幸せな環境だと思っています。僕はディフェンスを見るコーチたちと一緒に歩んでいます。今はコーチが提示するディフェンスに対して、経験のあるプレーヤーとして側面支援することが大事だと思っています」

 チームはこの休止でクボタは、昨年トップ2の神戸製鋼、サントリーとの対戦を失った。4月、再開がもしかなえば、初戦はヤマハ発動機、昨年3位チームとの激突だ。

「チームメートを兄弟のように感じている」

 仲間は彼をクロッツ! と親しみを込めて呼ぶ。31歳のNZ代表は周囲のメンバーと、より結束を固めてリーグ再開を待っている。

 最後に余談。新型のウィルスが世界を駆け巡る中で、各チームのメディア担当者は大変な苦労をしている。この日も、選手とチームを守るための対策をいくつも施して、取材機会をなんとか作り出してくれた。そんな苦労を知った上で、選手がどう振る舞ったか。クロッティの所作は際立った。

にこやかに、約束より早めに取材の場に現れたクロッティは、撮影準備に没頭するカメラマンに近づくと、身をかがめて声をかけ、笑顔で握手を求め初見の挨拶をした。外部者の方が遠慮してしまうくらいに、フレンドリーだ。こんな時だからこそ、なのかもしれない。

セットされた照明器具の前に自ら立って「さあ、やろうよ! どっちを向けば?」。撮影に談話。取材は結果的に、予定よりも少し早く終わった。

「いつも、ああなんですクロッツは」

クレバーさと献身で鳴らした元プロップの広報スタッフ・イワツメさんが、独り言のように言う。

「ファンにも自分から近づいて、頼まれる前からサインや記念撮影を促す。チームの中でも、彼の周りにはポジティブな空気が流れると言うか。オールブラックスって、本当にすごいんだなと。はい、人間性が」

ラグビーファンにとっては寂しく、もどかしい日々が続く。名手たちは今、準備にベストを尽くしている。

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