ラグビーリパブリック

【コラム】釜石のワールドカップは、まだ終わっていない。

2020.03.12

鵜住居復興スタジアム。地元の子供達の姿も多かったウルグアイvsフィジー戦の観客席(撮影:山口高明)


 東日本大震災の発生から9年目の3月11日が過ぎた。

 釜石のワールドカップは、まだ終わっていない。

 170万人超の観衆を集め、空前の盛り上がりを見せた昨秋のラグビーW杯。12会場で唯一、スタジアムを新設した岩手県釜石市は、その熱の余韻を引きずっている。

 釜石市はW杯1周年記念事業として、今年の10〜11月に、台風の影響で中止となったカナダとナミビアの国際親善試合を開催する方向で日本ラグビー協会と調整を進めている。2020年度予算にも記念事業などの経費に約5千万円を計上した。

 釜石市のラグビーW杯推進本部事務局の正木隆司統括部長は「コスト負担の観点もふまえて、市民が納得する形で開催したいと思っている」と意気込む。

 W杯をきっかけに交通アクセスは大幅に改善されたとはいえ、釜石鵜住居復興スタジアムは決して利便性の高い場所にあるとはいえない。県内外の人をどう呼び込むか。そんな命題を抱える「祭りの後」の釜石市において、世界中に発信できるストーリー性をもった試合を開催することの意義は大きい。

 一方で、今後も定期的に行うことが難しい単発の試合開催だけでは、スタジアムの持続性を担保することはできない。

 市民の関心や懸念は、採算の見通しに向けられる。スタジアムの年間維持費は約4千万円(主な内訳は芝生や機械設備の管理費2200万、人件費1200万、電気など消耗品500万円)。できるだけ収入を増やして、収支をゼロに近づける施策が求められる。

 今のところ、利活用の中心と考えられているのはラグビーを中心としたスポーツだ。

 現在トップチャレンジの釜石シーウェイブスは、2021年に始まる予定の新リーグへの参加意向を表明している。サッカーJ3のいわてクルージャ盛岡、日本製鉄釜石サッカー部などもスタジアムの定期使用に関心を示しているという。釜石市は音楽イベントの誘致などの働きかけも強める意向だ。

 ただ、有料イベントの使用料は1時間あたり5万270円。これまでの実績ではトップリーグの試合でも実入りは数十万円程度で、使用料収入だけで維持費をまかなうことは不可能に近い。そのため釜石市は広告協賛やネーミングライツ、民間事業者への運営委託などを模索し、’20年度内に具体的な運営指針を決めるとしている。

 市の年間予算は20年度が約279億円。その中で4千万の出費は決して高いわけではない。W杯後のことを考えてスタジアムを質素な作りにしたことの成果といえる。一方、W杯時に設置した1万人分の仮設席を撤去したため、日本ラグビー協会が新リーグ参入の要件として掲げた「1万5千規模のスタジアム保有」という条件はクリアできていない。痛しかゆしの現状も浮かび上がる。


写真奥の観客席が、期間中増設されたサイドスタンド。ウルグアイがフィジーを倒した9月25日には、釜石の「虎舞」のほか、北上市に伝わる「鬼剣舞」も披露された(撮影:山口高明)

 釜石のみならず、競技施設で採算をとることの難しさは、日本のスポーツ界が抱える課題の一つだ。例えば、東京都はオリンピック・パラリンピックの競技会場として整備する6施設のうち、5施設の年間収支は赤字になると試算している。黒字化できるのは音楽ライブなどの収益が見込める有明アリーナのみで、それ以外の5施設の赤字額は合計で11億円弱に上る。オリンピックのメイン会場となる新たな国立競技場も、年間維持費24億円をどう賄うかに頭を痛めている。
 
 復興スタジアムは、津波の直撃をうけた小中学校の跡地に建った会場だ。そのためにも子どもたちに広く開放し、市内外の学校を中心に市民が使いやすい予約システムなどを構築することが不可欠になる。収益性よりも人が使うことを最優先させることで、将来の活路が開けるのでは、と個人的には考えている。
 
 大規模国際イベントを開いた会場を「負の遺産」にしないためにも、三陸の小さな街をスタジアムを軸に活性化するという文脈においても、釜石市のこれからの取り組みは注目に値する。
 釜石のW杯は、まだ終わっていない。

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