ビストロ「Aminima」(アミニマ)は真っ赤な扉が目印。ビブグルマンは4年連続。美食のミシュランガイドが普段使いの太鼓判。
最寄り駅は外苑前。秩父宮ラグビー場の手前、通称・熊野通りを西へ。ここは日本一おしゃれな界隈のひとつ。
代表の鳥山由紀夫さんは男優か。甘いささやき。腰の低い接客。
しかし、評判の店と人を形作っている芯は、血と汗と涙である。
「チクシやぞ!」
鳥山さんは福岡県立の筑紫高校でラグビー部をつとめ上げた。店内を見渡す目はSHの名残り。FWとBKのつなぎが生きる。
「お店がやれているのは筑紫のお蔭。3年間、頑張ったご褒美だと思っています」
気合いの雄たけびは、主にテレビ番組を通じて全国に喧伝された。OB監督の西村寛久さんが発祥とされる。今、中川家・礼二さんとOBの笠原ゴーフォワードさんが掛け合う。FL笠原は明大で代表プリンス「優さま」の舎弟になり、芸人の道を歩んでいる。
アミニマの開店は2014年6月。あと3か月ほどで7年目に入る。相棒は阿部真子シェフ。「あべちゃん」と呼ばれる。
そのイチ押しは「サバのリエット」。豊洲市場から取り寄せたサバをオイルで煮てほぐす。バターなどを混ぜ込み、隠し味に新潟の辛み「かんずり」を使う。バケットに乗せて食すと臭みのないサバのほどよい脂が口いっぱい。値段は1000円(税抜き)。
人生をかけ、あべちゃんが作り上げてきたカレーも大人気。マリアージュはアルザスの白、ブルゴーニュの赤など。ワインはグラス800円、ボトルは4500円から。
あべちゃんは来月、店を辞する。
「私も筑紫魂で嫁いできます」
ラグビー経験者ではなく、しかもOGではない女子の口からも「チクシ」が出る。
その「筑紫魂」ってなんですか?
「よくわからないけれど、勢いは伝わります」
それは大事。勢いがないと結婚もできない。
嫁ぎ先は青森のにんにく農家。鳥山さんと食材探しの旅で出会った。
「新幹線の二戸(にのへ)の駅から車で30、40分くらいです」
それは逃げにくい。添い遂げるためには筑紫魂を持ち続けることこそ肝要。
鳥山さんは人生半世紀。筑紫に入った時、中学の先輩に首根っこをつかまれた。
「クラブはなんに入るとや?」
そのまま強制連行。
いつも練習前に3000メートルを走らされた。タイムを切らないと罰走あり。さらに坂道ダッシュを繰り返す。練習に行きつくまでに、すでにヘロヘロだった。
「やめる方が怖かった。先生は火のかたまりのようなひと。熱い人でしたから」
当時の城戸英敏監督は西村元監督の恩師。渡世の用語では「オヤジ」という。
筑紫の創部は1974年(昭和49)。学校創立の2年後。ジャージーは白で胸に黒3本線。冬の全国大会には5回出場(55、58、63、78、95回)している。
その63回大会を城戸監督が率いた。初戦で日川に0−11。WTBは西村元監督。PRは永田隆憲さん。永田さんは早大から九州電力に進み、筑紫初の日本代表になった。
鳥山さんら13期生のラストは67回大会。予選準決勝で糸島に0−3と惜敗した。
「最初、50メートル走は8秒2だったのが、最後は6秒6になりました」
成長は数値に出る。結果オーライ。
卒業後は大阪の辻調理師専門学校に進む。あこがれたのはフレンチの三國清三さん。テレビで見たシェフは外国人たちに臆することなく指示を伝えていた。
「これしかない」
調理師免許を取得。上京する。
乃木坂のFeu(フー)で13年。恵比寿のSALUT(サリュー)で12年。ソムリエなどサービス中心に経験を重ねる。そして、オーナーとしてアミニマを開いた。
「僕はそれまでの卒業生の中で、ただひとり料理の専門学校に行きました。城戸先生は心配して、どの店にも会いに来てくれました」
東京での生活は30年。スタジアムでの観戦機会は格段に増えた。
「ラグビーが一層大好きになりました」
昨年のW杯は準決勝の南アフリカ×ウエールズ(19−16)など3試合を見た。
店には久保修平さんが来る。日本人唯一の審判団入り。アシスタントを担当した。
「世界のレフェリーを連れてきてくれました。みなさんに気に入ってもらえたようです」
久保さんは筑紫ラグビーの後輩だ。
その中にはフランスのジェローム・ガルセスさんらがいた。
「僕は多少フランス語を話せます」
トレビアーンって言ってくれました?
「はい」
場外戦はアミニマが勝利。ガルセスさんは決勝の南アフリカ×イングランド(32−12)の笛を吹いた。その世界最高をうならせる。賞品はフランス協会のジャージーだった。
「この感じでいければいいなあ、と思っています。マイペースで、好きなものに囲まれて、お店を続けていければ、最高です」
柔らかい接客と美味しい料理。支えてきたのは「チクシやぞ!」の思い。それは、これからもこの店の中で息づいていく。
◆Aminima◆(アミニマ)
■住所 〒150−0001 東京都渋谷区神宮前2−5−6 アマデウスハウス1階
■電話 03−6804−2846
■営業時間 17時〜23時(ラストオーダーは22時30分)。土曜のみランチ営業(正午〜15時、ラストオーダーは14時)もあり
■定休日 日曜。祝日は夜営業のみ
■席数 カウンター4、テーブル20(2人用は6、8人用は1)