ラグビーリパブリック

【コラム】狼たちの躍動を見よ。

2020.02.13

谷田部洸太郎はパナソニック11年目のLO。高みを目指す気持ちは持続する(撮影:上野弘明)

■絶対に、ファンががっかりするようなゲームはしない。

 お見事というほかない。サンウルブズのことだ。2月1日、福岡はレベルファイブスタジアムでの今季初戦で、オーストラリアのレベルズを36-27と破った。スーパーラグビー参戦5年目にして初の開幕戦白星スタートである。

 ワールドカップの影響でトップリーグの開催時期がスーパーラグビーのシーズンと重なり、チーム編成はこれまででもっとも難航した。過去4年、自国開催のワールドカップで結果を残すために日本代表やサンウルブズでの活動を優先させてもらってきた選手たちが、今季は本来の所属先で恩返しを——と傾くのは無理もない。もとよりサンウルブズは今季限りでのスーパーラグビーからの除外が決まっている。「2019のため」という大義が求心力になった昨シーズンまでとは、大きく事情が異なる。

 2019年11月26日に発表された第一次スコッドは15人。その後小刻みに追加されたものの、1月6日に始まった市原でのプレシーズン合宿の最初の練習に参加したのは27人で、うち6人はトレーニングスコッドだった。

 しかし、そんな状況でも大久保直弥ヘッドコーチをはじめとするスタッフ陣にネガティブなムードは皆無だった。自分たちがすべきことにフォーカスし、1パーセントでも多くチームのパフォーマンスを引き出すことに集中する。そんな迷いのない姿勢に、覚悟と意地がにじんだ。

 市原合宿に続いて11日から行われた別府合宿の取材中、沢木敬介コーチングコーディネーターの言葉が印象に残った。初めて日本人主体のスタッフ陣でスーパーラグビーを戦うことについて質問すると、こんな答えが返ってきた。

「大切なのは、いいマネジメント、いいトレーニングをして、いいチームを作ることだと思っています。外国人コーチだからとか日本人コーチだからとかは、そこには関係ない」

 実際にトレーニングを見ても、始動して2週間足らずとは思えないほどチームには一体感があった。顔を合わせたばかりのメンバーもいるのに、選手、スタッフ全員が同じ方向を向いている。もちろん精度は満点とはいかないが、明確な指針に基づき、誰もが自分たちのスタイルを認識して懸命にメニューに取り組む。いいコーチングの存在は明らかだった。

 もうひとつ印象的だったのは、選手たちの貪欲な姿勢だ。一人ひとりが「やってやる」という意欲に満ちている。そんなイメージ。スーパーラグビーは甘くない。この時点で開幕戦勝利を予想していたといえば嘘になる。でも、このチームは絶対にファンががっかりするようなゲームはしない。それだけは確信できた。

 果たして、開幕戦は序盤からサンウルブズの気迫と準備が際立つ展開となった。運動量で相手を上回り、自分たちの強みを効果的に活用して好機を着実に得点へ結びつける。ディフェンスでも接点でのファイト、突破された後のカバーリングと懸命に体を張り続け、安全圏のリードを守り抜いた。思い描いていた通りの快勝だった。

「この勝利で、我々が寄せ集めではないとわかっていただけたらうれしい」

 大久保ヘッドコーチの試合後のコメントだ。その言葉通り、サンウルブズはあざやかなラグビーで周囲からの不安の声を一掃してみせた。ワールドカップに出場した5人のオーストラリア代表を擁しながら、焦点の定まらぬ戦いに終始したレベルズとは対照的な、ビッグパフォーマンスだった。

 この白星は、単なる1勝にとどまらない価値をサンウルブズにもたらすだろう。きちんとステップをふめば、これまで勝てなかった相手にも勝利できる。ボールインプレーの時間を長くしてスピードで上回るスタイルが自分たちの武器であることも、あらためて実感できた。ワールドカップをきっかけに爆発的に増えた新しいファン層に対し、サンウルブズのゲームを見る楽しさをアピールすることにもなったはずだ。

 むろん試練は続く。スーパーラグビーの本当の厳しさを味わうのは、むしろこれからだろう。一方で、そうしたタフな環境で戦っていくことが、選手を飛躍的に成長させるのも事実だ。その成長を求めて険しい道のりを歩む決断をしたのが、今季のメンバーたちでもある。

 共同キャプテンに指名された森谷圭介のハツラツとしたアタック、最終選考でワールドカップスコッドから外れた布巻峻介のブレイクダウンでの存在感は、スーパーラグビーで戦うことの価値を如実に表していた。このレベルでも力が通用することを証明したCTBシオサイア・フィフィタ、SH齋藤直人ら大学生たちの堂々たるプレーぶりも頼もしい限りだ。ハングリーで可能性に満ちた狼たちが、どのような成長を遂げていくのか。楽しみに見つめていきたい。