泣くなグレース。
アルテミ・スターズは、もっと笑顔に。
2月9日、熊谷ラグビー場でおこなわれた全国女子ラグビーフットボール選手権の決勝で横河武蔵野アルテミ・スターズとRKUラグビー龍ケ崎GRACE(グレース)が戦った。
80分を終えて7-7。互いに自分たちの力を出し合った戦いは引き分けに終わった。
選手も観客も両者優勝と思った幕切れ。しかしそのとき、大会規約に沿って厳格に、と考えた人がいたのが驚きだ。
次のステージがあるわけではないのに、優勝チームが抽選で決められた。
今回が6回目だった同大会。前身の大会にあった、参加全チームの順位を決める規約が残っていた。これまで決勝で引き分けがなかったから、今回は「想定外」のことだったという。
そこで、「規定通りに」と決断したことが残念だ。両者優勝と、当たり前の判断はされなかった。
南早紀主将が「優勝」の封筒を手にしたアルテミ・スターズは、初タイトル獲得だというのに、手放しで喜ぶことができなかった。
グレースはやり場のない思いを抱え、目に涙をにじませた。
そんな表彰式になったけれど、ともに奪った得点は強みを出してのもの。好ゲームに、観客からの拍手は両チームに贈られた。
名物の強風が吹いたスタジアム。
前半、風上に立ったグレースが先制点を挙げたのは15分だ。自陣で相手ボールのスクラムから攻められるも、ミスでボールを得ると集中力高く切り返した。NO8鈴木彩夏主将が60メートル以上を走り切った。
SO大塚朱紗のコンバージョンキックも決まり7-0。ハーフタイム直前には、日本代表FWをずらり揃えるアルテミ・スターズの猛攻をゴール前で守り切った。この試合を通して見せた、粘り強い防御の意志が強く感じられるシーンだった。
スクラムやブレイクダウンまわりの攻防で優位に立ったアルテミ・スターズは、長い時間、相手にリードを許す展開だったが落ち着いて得点機を待った。
何度も攻め込みながら仕留め切れなかった展開を破ったのは後半27分。グレースの反則で敵陣に入り込んだアルテミ・スターズは、15分近くそこに居座った。
決定機はゴール前で繰り返したスクラム後だった。押し切れないと判断するとBKへ展開。できたブレイクダウンにFWが駆けつけてピック&ゴーを繰り返した。
HO加藤幸子がインゴールに飛び込み、コンバージョンキックも決まった。
戦いを終え、優勝カップを手にしたアルテミ・スターズの南主将は、「グレースのディフェンスが良かったけど、こちらも集中力を切らずに戦いました。(相手のBK対策として)コミュニケーションを取りながら守れました。応援をしてくれた方にいい報告ができました」と語ったものの、「(試合終了の瞬間は)両チーム優勝だと思った」と正直な気持ちを口にした。
グレースの井上愛美ヘッドコーチは、涙を浮かべて「勝った時のことしか考えていませんでした。選手たちにかける言葉がない」と話した。
1月5日に関東大会で優勝してからの1か月、日本一を目指して以前以上の練習を積み重ねてきた。
「負けなかったけれど、勝てなかったのはどうしてなのかコーチとして突き詰めていきたい」
日本一になった日に、あらためて日本一を目指す覚悟を示した。