もう、伏見工というチームはない。
深紅に黒襟のジャージーは学校統合で京都工学院に名前を変えた。
でも、自然と「フシミ」と呼んでしまう。
年長者ほど、その傾向は強い。
歴代6位の全国大会優勝4回。それらは伏見工時代になされる。
先のW杯では日本代表にOBのSH田中史朗(キヤノン)、SO松田力也(パナソニック)を送り込んだ。2人は初8強に貢献する。
インパクトは依然として大きい。
その創部は1960年(昭和35)。今年は節目の60周年だ。SO中村大介は話す。
「新チームの最初のミーティングはその話でした。みんな気持ちがより高まりました」
中村らが最上級生となり、始動したのは昨年11月19日。全国大会の府予選決勝で京都成章に5−31で敗れた2日後だった。
首脳陣たちからは語られる。
「ウチは60周年。全国大会は100回。ともに記念の年。出場を楽しみにしている人たちがいる。ラグビーができることに感謝して、いいラグビーをしないといけない」
監督の大島淳史は今年7月に38歳になる。現役時代はFL。主将でもあった。
「僕たちが3年の頃に創部40周年でした」
80回大会(2000年度)では決勝で佐賀工を21−3で破った。節目で頂点に立っている。
大島に率いられる京都工学院は、1月19日、2年連続34回目の近畿大会出場を決めた。新人戦を兼ねた予選Dブロック決勝で京都外大西に106−5(前半57−0)と圧勝する。
総監督の山口良治は近畿大会開幕の2月15日に喜寿の誕生日を迎える。ベンチのはるか後ろで持ってきた簡易椅子を使って、チームを見守った。今、杖を手放せない。
「ワントライを許してしまったあたりがね。まあ、相手の執念やと思うけど、あそこでトライをさせてしまうのはまだまだ甘い」
FLとしての日本代表キャップは13。その山口が保健・体育教員として京都市立の伏見工に赴任したのは1974年。翌年、監督に就任し、6年目の60回大会で全国優勝を果たす。主将は後年、「ミスターラグビー」と呼ばれるSO平尾誠二だった。
その60回を皮切りに、72、80、85回大会でも頂点に立つ。準優勝は2回。大会出場はここまで20回を数える。
ただ、ライバルに成長した京都成章の存在があり、95回大会を最後にここ4年間は全国舞台からも遠ざかっている。
山口は言った。
「私学全盛の時代やな」
1月7日に終幕した99回大会では準々決勝に勝ち上がった8校中、同じ公立は奈良の御所実のみ。60回大会は5校あった。
孫と同じ世代の選手たちに視線を向けながら、山口は続ける。
「花園のファンの中にはフシミのファンもいてくれるはず。フシミの名前は消えていない、という意識を持ってほしいね」
今年のチームを大島は評する。
「大きくありません。松永を除いて、みんな180以下ですね」
NO8の松永壮太朗だけが186センチ、86キロとサイズがある。
そのため、大島たちは伝統となる「ボールを動かすラグビー」にこだわる。
「アタックのセッティングを速くする、球出しに時間をかけない、ラインアウトからでも素早くボールを入れる、PKでは早く展開する、そんなことを意識してやっています」
府予選決勝の京都外大西では15トライを挙げた。エースで主将のFB寺山廉太郎を左足首脱臼骨折で欠いたり、経験を積ませるためにフロントローの3人を控え選手で構成したが、獲得の5点はすべてBKが記録した。
大島は現状を好ましく思っている。
「展開しよう、ボールを動かそうという意識は高いと思います。取り組んできたものができている感じはしています。これからも積み上げをしていかないといけません」
現役選手たちの奮闘に呼応するように、昨年12月17日、「京都伏見クラブ」設立の記者会見がなされた。
伏見工OBが2011年に作ったNPO法人「伏見クラブ」に企業との連携を導入し、発展させた。これまでは小中学生のラグビースクール運営が中心だったが、今後は学習塾チェーンの協力を得て、スクールに英語学習を採り入れたり、社会人選手の引退後の就労などセカンドキャリアの支援なども行う。
京都伏見クラブの活動充実は、チームにも利する。中心的な役割を担う高崎利明は期待感を持っている。
「よい影響は必ずある」
高崎は京都工学院の教頭であり、ラグビー部では監督を経験し、現在はGMだ。初優勝の60回大会で平尾とHB団を組んだ。
周囲の環境整備も進む中、71回目の近畿大会は徐々に迫ってくる。今年は地元開催のため、出場枠は例年の2から4に増えた。ほかに京都成章、同志社、洛北が出場する。
16校で争われる大会で5位までに入れば、3月開幕の21回目の選抜大会に出場する。
京都外大西戦でゲームリーダーも担った中村は力を込める。
「近畿で優勝して、選抜に行きたいです」
春の勝利の積み重ねが夏、秋につながり、そして冬の全国大会へと続く。
創部60周年と100回記念大会。2つをリンクさせるべく、京都工学院は研鑽に励む。