ラグビーリパブリック

「明治の文化、積み上げる」。明大ロック片倉、次年度への意欲

2020.01.22

片倉康瑛は3年生のLO(明治大学の合宿所にて/撮影:幡原裕治

 今でも悔いが残るプレーがある。

 前半32分の自陣ゴール前、早大ボールのラインアウトで、仲間にたった一声がかけられなかったことだ。

 1月11日の大学選手権決勝で、早大に35−45で敗れた明大。2018年度に続く連覇を見据えて「隙のないチーム」を作ってきたが、最後のゲームは前半で大量失点を許す波乱の展開となった。

 LO(ロック)片倉は、3年生ながらラインアウトをリードする役割を負っていた。この試合では、いつも得意としているラインアウトのディフェンスもうまく機能していなかった。狙いどころをことごとく外されていた。

「全部で4本あった早稲田ボールのラインアウトで、すべて僕の立っているところを外してきた」

 ハーフタイムにディフェンスの方法を整理したが、悔いが残るというラインアウトは前半、32分の場面だ。

 相手に大きくゲインをされた後、自陣ゴールをすぐ後ろに背負ったプレッシャーのかかる場面だ。結果的にこの場面で、明治は早大にトライを許す。ラインアウトからモールを組まれて、そのまま押し込まれた。

 ボールに絡みにいくのか、モールを押し返すのか。

PR笹川をサポートする片倉(撮影:松本かおり)

 原因は、明治FWの選手個々が、押してくる早稲田にバラバラな対応をしてしまったことだった。ゴールまで5メートルしかないラインアウトでモールを組まれ、初めに勢いがついたら止めるのは難しい。その重要な初動で、明治が意思統一をできていなかった。

「サックかスマッシュか、いつもだったら必ず、声に出して確認をするところなのですが、あの時に限ってそのコミュニケーションが取れなかった」

 片倉はいつものように、相手のセットアップまでの様子を観察していた。

「あのラインアウトは、絶対に何か早稲田がやってくる、スペシャルプレーで来るという確信がありました。早稲田がサインを決めるのがすごく早かった」

 キャッチ直後の密集周りのスペースが危ないと感じた。FW戦では分がある明治に対して、早稲田はそれをいなす奇襲を準備しているはずだ。実際にこの試合の序盤2本の早稲田の連続トライは、どれもセットプレーからの準備された仕掛けだった。

 が、実際は普通に押してきた。

「スペシャルな動きへの対応を、と。それでいつもの声がかけられなかった」

 早大HO森島大智がモールでのトライを決めて、明治0ー21早稲田。勝利を重ね、自分たちの形をストイックに磨き上げてきた明治はこの日、予想外の場面の連続に、力を出しきれなかった。ラインアウトの戦術にたけ、相手の様子に敏感に反応した片倉らの研ぎ澄まされた対応。その結果、「いつもの一声」がかけられず、相手を勢いに乗せるスコアが積み上がってしまった。

 片倉はラインアウト博士だ。その意欲とセンスを買われて2年時から上級生と一緒にラインアウトのセッティングを考え、各校との駆け引きの最前線に立ってきた。今でも明治のFWとして自分には物足りなさを感じるという片倉は、もともとは、フィジカルを前面に押し出す選手ではない。

「幼稚園の時にラグビーを始めて、引っ越しなどもあって一度ラグビーはやめています。中学に入る時にも自分はそれほど意欲的ではなかった気がします。ただ、メイジのラグビーに対する憧れはいつもあった」

高校、大学でプレーを続けることになったのは、先輩が熱心に誘ってくれたからだった。大学入学時は、1学年上で同じ高校(明大中野)の、PR笹川大五の存在が大きかった。「4年でなんとか紫紺(ファーストジャージー)が着られれば…と思っていた」

 一方で、高校時代から興味があったのがラインアウト。実直で優しい性格とは裏腹に、ゲーム上の駆け引きには興味と、センスがあった。この領域でなら、自分でもチームに貢献できると感じてやってきた。それだけに早明決勝で力が出せなかったのは悔しい。

「ハーフタイムには修正したのですが、後半、早稲田ボールのラインアウトは一本もありませんでした」

 次は最高学年。悔いは来年への意欲につながっていく。

「こんなにいいチームなのに、勝てなかった。ただ、明治は一昨年、去年といい文化を積み上げていると思います。来年は龍雅(箸本)が中心になるのではと思いますが、いいチーム、今度こそ隙のないチームを自分たちが作りたい」

*早明決勝のレポート、両校の後日インタビューなどは、1月24日発売のラグビーマガジン2020年3月号に詳しく掲載。