ラグビーリパブリック

自信をつなぐ開幕戦。東芝らしさ体現

2020.01.12

パスアウトする東芝SH小川高廣(撮影:松本かおり)

「東芝の文化の賜物です」

 開幕戦勝利について聞かれたトッド・ブラックアダー ヘッドコーチ(HC)は、キャプテンと選手たちを称えた後に噛み締めるように語った。

 1月12日の秩父宮。2万1564人が集まった開幕ゲームで、東芝ブレイブルーパスが、サントリーサンゴリアスを26−19で破った。昨年11位と低迷してきた東芝が、同2位の格上チームを倒した。前半29分に、サントリーのFWが退場になり、多くの時間が東芝15人、サントリー14人で行われた試合ではあったが、東芝にとっては大きな勝利。このカードでの東芝の白星は2014年3月1日以来だった(日本選手権またはトップリーグでの対戦に限る/東芝25−24サントリー:日本選手権準決勝)。

 PR知念雄は後半33分に交代出場。終了の笛が鳴った瞬間、拳を握って歓喜の雄叫びをあげた。

「リスペクトしている相手なので自然に出ました。相手が14人になってからは特に、自分たちのアタックをしていればきっと通じると思えた」

 激しいコンタクト、攻めても守っても前に出る……その姿勢には、かつての強い東芝の匂いがあった。

 瀬川智広監督が指揮を執った今季カップ戦で4強入りし(*)、直後にブラックアダーHCを招き入れて入念な準備を重ねた。元NZ代表、南半球スーパーラグビーと英国プレミアシップで実績をあげた指揮官が植え付けたものは何か。

 この日をリザーブで迎えた知念だが、チームの意思ははっきりと言葉にできた。

「自信です。信じること。トッドさんと新しいコーチングスタッフは、東芝のラグビーの文化に自信を持ってと、繰り返し訴えかけてくれました」

 出色の動きでチームの攻守のトリガーとなっていたのはSH小川高廣・共同主将。7−7で迎えた前半41分のアタックは目の覚めるようなスピードと方向転換が見られた場面だった。トライを決めた小川だったが、素晴らしかったのはその前のボールさばきだ。連続攻撃のラックから出てきたボールを、加速しながら拾って真横に走った。走るコースと同一線上に発射されたパスの先には、やや流れるようにボールを受けたCTBティム・ベイトマン。膝を抜くような動きで相手タックラーの腰をぐらつかせ、また一気に外へ加速して置きざった。ゴール直前にできたラックから、小川がパスをちらつかせつつインゴールへ躍り込んだ。

 小川はここぞのディフェンスでもチームを引っ張り、さらに2トライを加えてこの日のマン・オブ・ザ・マッチを受賞。ブラックアダーHCは記者たちに小川を誇った。

「どうして彼がこのチームのキャプテンなのか。皆さん分かったのではないでしょうか。きょうのプレーが教えてくれています」

 迷いのない持ち出し、ラックの影から現れたロケットのようなアタッカーは、一瞬、相手のディフェンダーを混乱させた。チームの意思統一が生んだシーンだ。そして、ラックからそれほど素早くボールが出てきたのは、コンタクトエリアを優位に運んでいたからだ。

「いいスタートが切れてうれしい。このチームは、みんなで作ってこられたのがいいと思っています」

 小川本人は、強気なプレーとは対照的な穏やかな口調で、仲間を誇った。                        

 カップ戦で4強入りし(*)、昨季トップリーグ を振り返って指摘したのは、チームに漂う自信のなさだった。曰く、どこか半信半疑。それがカップ戦で半分払拭された。その自信を広げ、高めるのが中断中の宿題だったが、新指揮官の励ましを受けてチームはもう一段上に引き上げられた。

「システムも含め、トッドさんは、東芝の良さが生きるコーチングをしてくれる」(知念)

 この日、要所でチャンスを作ったオフロードパスも、現象を見れば、かつて東芝が他に先駆けて唱えた「スタンディングラグビー」だ。

 ボーナスポイントよりも、FWを前に出す勢いを大事にした小川のプレー選択は、今、積み上げたいのは自信だというチームのハングリーさを象徴している。「あの時は、ただ、もっとFWでゴリゴリいきたいと思っていました」

 ゲーム運びの修正はこれからにとっておこう。15節の長い旅が始まった。

*東芝のカップ戦の戦績を修正しました。お詫びして修正いたします。重要な戦績の誤記、誠に申し訳ありません。

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