ラグビーリパブリック

桐蔭学園のカウンターラックは決勝も冴えるか。高校日本一へ王手。

2020.01.07

ラックのファイトだけでなく走りも魅力的な桐蔭学園のLO青木恵斗(撮影:早浪章弘)


 決勝戦も守りきる。

 神奈川の桐蔭学園は1月7日、大阪・東大阪市花園ラグビー場で全国高校ラグビー大会の決勝で奈良の御所実とぶつかる。5日の同会場での準決勝では、要所でターンオーバーを決めて過去優勝6回の東福岡に34-7で快勝。初の単独優勝に向け(2010年度に東福岡と両校優勝)、2年生LOの青木恵斗は「3年生を最高の形で引退させたい。優勝をプレゼントしたいです」と意気込む。

 桐蔭学園にとっての東福岡は、春の全国選抜大会の準々決勝(埼玉・熊谷ラグビー場)では67-21で勝っているチーム。もっともいま立っている舞台は、最上級生にとって高校生活最後の大会となるスペシャルステージだ。

 3日に4強入りを決めてからは、大きくボールを動かす東福岡を徹底分析。ゲームプランの詳細を詰めるべく、4日の練習前に約2時間、その日の夜に約2時間、試合当日の朝に約1時間、選手同士でのミーティングをおこなった。

 準備のおかげか。前半5分、大外へのパスをインターセプトしたWTBの飯塚稜介が先制トライを奪う。以後、東福岡は自陣から見事な連続攻撃を披露も、桐蔭学園の鋭い防御がその脅威を最小化した。

 先発の左PRとして白星をつかんだ床田淳貴が、その心境を明かす。

「相手にボールを渡したら怖いとは話していて、実際にアタックされている時はめちゃくちゃきつかったです。でも、きつい時間帯にどれだけ動けて、ひとつのチャンスにかけられるかがFWの仕事」

 床田らFW陣は、ハードタックルとその後の起き上がり、何より機を見てのカウンターラックで試合を引き締めた。

 カウンターラックとは、相手ボールのラックに入る相手を敵陣側へ押し返し、地面のボール乗り越えるプレー。ボールより前の位置でプレーできないラグビーにあって、攻守逆転を生み出す。

「ラックに入っている相手が(自分の側に)胸を見せる高さになっている(かどうか)。自分はそういうところを見ています」

 こう語るのはLOの青木。14-7とリードして迎えた前半24分頃、敵陣10メートルエリア右でFLの石塚勝己がカウンターラックを試みる。青木もその箇所へ頭をねじ込み、東福岡のフェーズアタックを寸断した。

 その青木のトライで21-7とリードを広げていた後半5分頃にも、自陣22メートル線付近右中間で床田ら4名のFWがカウンターラックに成功。24-7で迎えた後半17分頃には、自陣22メートルエリア左でのピンチをやはりカウンターラックでしのいだ。

 味方の好タックルが決まり、東福岡のサポート役が「胸」を見せる姿勢になれば、桐蔭学園のFWはそこを突き続けた。

「(戦前に)東福岡さんのビデオを分析して、ラック(に入る選手)の数が1~2枚だとわかっていた。(圧力を)かけられるところはかけよう、と」

 こう語る青木は、3日の準々決勝でカウンターラックの「かけ方のコツをつかんだ気がします」とのことだ。

 この日は昨季王者でフィジカルの強い大阪桐蔭が相手だったが、21-0で迎えた後半7分に青木と石塚のコンビがカウンターラックに成功。直後のペナルティゴールで24-0とリードを広げ、31-12で勝っている。

「相手の胸が見えた時、相手の肩より下に入り、相手の膝の裏を持って自分の足をかく。そうすると相手の上体が自然と起きる。あとは後ろの人も押してくれて、(ボールの位置を)越えられるかなと」

 身長187センチ、体重107キロの体格でランナーとしても期待大の青木は、ほんのわずかな時間でぐんぐんと成長している。さらに「自分としてはまだまだだと思っていて」と、高みを見続ける。東福岡戦でのパフォーマンスについて、こう反省した。

「かけられるところの見極めが甘いです。きょうも、(本来なら)もう少しかけられるところがあった。ボールが出た後、そのラックの相手が1枚しかいなかったと気付くこともあった。それを振り返り、次に臨みます」

 ここでの「次」とは、もちろんファイナルだ。御所実のFWは全体的に小柄だが、青木は過去の対戦経験から「一人ひとりの体幹というか、ずっしりとくる重さが他のチームと違う。体重のかけかたがうまい印象です」と実感。「かける」べきところは「かけ」て、難しいと判断した場合は「次のディフェンスに入る」。正しいジャッジを下したい。

 身長177センチ、体重98キロの床田は、逆に御所実のカウンターラックを警戒する。自軍ボールのラックに入った選手が「胸」を見せないよう、仲間に呼びかける。

「相手がかけてくるところで、(自軍FWは)低い姿勢になって前を見る。そういう基本的なことを、ミーティングから確認したいです」

 よく話し、よく考え、よく身体を張る桐蔭学園のFW陣。頂点に立つために地を這う覚悟だ。