選手でもあり、コーチでもあった。
國學院栃木で学生コーチを務めてきたFL藤田悠介とSH小林桂は、2020年1月1日、東大阪市花園ラグビー場で無念の表情だった。
第99回全国高校ラグビー大会。Bシードで乗り込んだ通称「花園」の2回戦で、國學院栃木は、1回戦で最多得点記録を更新(162得点)した兵庫・報徳学園に14-12で競り勝った。
そして元日の3回戦。東大阪市花園ラグビー場の第1グラウンドで、Bシードの東福岡と激突。
12-17で敗れたが、後半22分にはWTB青柳龍之介(2年)のトライで12-12の同点。全員が猛ディフェンスで東福岡を追い詰めた。
好タックルを連発していたFL小澤聖也(3年)は敗戦後、「みんな全力を出しました。関東2位(関東大会準優勝チーム)として花園に出場して、伝統、プライドを背負ってプレーできました」と清々しかった。
指揮官である吉岡肇監督も「執念のタックル、ディフェンスだった。胸を張って栃木に帰れます」という振り返る試合ぶり。「コクトチ(國栃)」のプライドは示した。
そして、リーダー陣らと共に1年間、学生コーチを務めてきた藤田と小林も熱戦を見守った。メンバー外で出場はなかったが、学生コーチとして心血を注いできたチーム。言葉は涙で震えていた。
「チャレンジャーという立場でした。ディフェンスではしっかりプレッシャーをかけられましたが、最後の最後までかけられなかった。そこは東福岡さんの集中力が高かったです」(学生コーチ・藤田)
「東福岡さんは強いですが、勝てない相手ではない、ということはみんな分かっていました。前回の報徳学園さんのイメージで臨みましたが…。最後までみんな、力を出し切っていた。みんなに感謝したいです」(学生コーチ・小林)
学生コーチ誕生のきっかけは、日本代表で主将も務めた浅野良太コーチがNECの指揮官に転身したこと。
「試合前のアップを仕切る人が必要だということになって、3月頃に話し合いの結果、自分たちになりました。キャプテンとリーダー陣、監督の推薦でした」(学生コーチ・藤田)
選手兼コーチの日々が始まった。課された仕事は、首脳陣との話し合いによる練習メニューの組み立て、日々の練習や試合前のウォーミングアップの仕切りなどだ。
「今までコーチに教わり慣れてしまっていました。急に考え始めて、考えながらラグビーをしていました。選手の気持ちを感じ取らなければいけなかったり…。複雑で難しいことをやりながらプレーをしたので大変でした」(学生コーチ・小林)
学生コーチ制を採用するなどし、自主性が高まることになった今年の國學院栃木。しかし練習メニューの作成、試合のレビュー等に積極的に関わるうち、やがてチームは新たな力を得ることになった。
「自分たちで考える力がつきました。その結果、試合中にできなかったことに対して対応できるチームになりました」(FL小澤)
指揮官も今年度を振り返り、高めた自主性の成果をしみじみ感じていた。
「もともとウチはキャプテンを投票で選んだり、選手たちのメンバー選考を尊重したりしています。ただ今年は主体性を色濃くやってみた。それが良かったのかな」(吉岡監督)
國學院栃木は聖地を湧かせた。ノーシードの強豪・報徳学園に14-12で劇的勝利。そしてBシードの強豪・東福岡には12-17。けっして諦めない執念のディフェンスは、仲間やチームを想う、絆の力に見えた。
2人の選手兼学生コーチは、最後に仲間への感謝を口にした。
「自分たちが仕切るとなって、迷惑をかけました。でもここまで結果を出してくれたので、感謝しかありません」(学生コーチ・藤田)
「みんなで協力して、ひとつのチームになって、最後まで戦えたことをみんなに感謝しています」(学生コーチ・小林)