廣瀬雄也は、所属するチームの空気を正すラグビー選手だ。
そう思わせるのは、野澤武史氏の談話。日本協会のリソースコーチやラグビー解説者など多くの顔を持つ野澤氏は昨季、廣瀬のある一面を見た。17歳以下の優秀選手が集まるコベルコカップに向けた、九州ブロックのキャンプでのことだ。
「最初にグラウンドに出てきて、全員分の水をボトルに入れていた。誰にも言われていないのに『必要だと思うので』って」
本人は笑う。
「そういうことをしないといいプレーができないという気持ちがあるので。試合前にも部屋を掃除したり。気を遣ってしまいます」
身長179センチ、体重90キロのCTB。所属の東福岡高では今季、FLの永嶋仁と共同主将を務める。藤田雄一郎監督いわく、「生活面でしっかりする(永嶋)主将と、廣瀬のような攻撃的な主将」。冬は大阪・東大阪市花園ラグビー場で、全国高校ラグビー大会に出場中。3季ぶり7回目の優勝を目指すなか、対戦相手からも学ぶ。
2020年1月1日、3回戦でのことだ。
過去8強入り1度の國學院栃木高がタフな防御を繰り出すなか、東福岡は終始ミスを重ねた。さらに後半22分には相手のカウンターアタックを許し、それまで保っていたリードを失った。12-12の同点。スタンドには緊張感が走った。
「最悪のケースもよぎりましたが、自分たちのやって来たことを丁寧にやり直したらチャンスはあると、あまりネガティブにならずにいました」
こう振り返る廣瀬は、引き締まった味方の連続攻撃をリード。28分には決勝トライをマークする。17-12のスコアで8強入りを決めると、まずは「花園の期間の前くらいから皆がずっと声を出していて、あそこでも『大丈夫、大丈夫』と声を掛け合って。逆に僕が助けられた感じ」と仲間に感謝する。
時間を置けば「國學院栃木さんに気づかされたことがあった」とし、次なる相手の流経大柏の防御を分析した。3日の準々決勝に挑んだ。
果たして昨季4強の流経大柏に、57-10で快勝する。大外のスペースで待ち構えたユニットが快適に駆ける、優雅にも映る60分だった。
らしさがにじんだのは、7-0で迎えた前半9分だ。敵陣10メートル線付近で、FWを軸にした塊がラックを連取する。
さらに右中間の接点から、ファーストレシーバーとなったFLの永嶋が左奥に立つSOの森駿太へつなぐ。
永嶋と森の周辺では、流経大柏の防御ラインが矢印のような形でせり上がっていた。ここで森は、その防御の手の届かぬ左大外へロングパスを放る。
このエリアでは右から順にWTBの高本とむ、LOの森山雄太、WTBの松岡大河が並んでいた。余裕を持って森のボールを受けた高本は、ゴールラインと平行なパスを松岡に投げる。タッチライン際の松岡は迫るタックラーをハンドオフではじき、加速する。
最後は、松岡の右側をサポートした森山がトライ。直後に廣瀬がゴールキックを決め、14-0とリードを広げた。
「流経大柏さんは、アンブレラという傘のようなディフェンスをしてきて、外側のスペースが空いている」とは、船頭役の廣瀬。向こうの防御網が広げた「傘(アンブレラ)」のような形となると看破。攻撃ラインの手前側の選手が「傘」の先端部分のタックラーを引き付け、端のスペースを複数名で攻略しようと目論んでいた。森山のトライは理想形だった。
そして続く11分、敵陣ゴール前右中間で球をもらった廣瀬は、「傘」の先端へ仕掛けながら左大外へ深い角度のパスを放つ。高本のこの日2トライ目を演出し、19-0とリードを広げた。
「自分がアンブレラのところでボールを託されてから、そのアンブレラの人が流せない(外のスペースへ移動できない)ようなアタックを。それがうまくはまった」
圧力を受けながら後方へパスする技術は、簡潔なようで難しいとされる。それを大一番で遂行したのがこの人の凄みなのだが、当の本人はこの調子だ。
「練習の時から、(自軍の)サポートメンバーやBチーム(控え)が流経大柏のディフェンスを真似してくれた。なぁなぁにじゃなくて、しっかり100パーセントのディフェンスをしてくれた。それで対応できたと思います」
グラウンド内でのパフォーマンスが買われてリーダーとなった背番号12は、グラウンド外でも確かな想像力を有する。1月5日の準決勝では、春の選抜大会で21-67と大敗した神奈川の桐蔭学園高とぶつかる。