2019年の大晦日。奈良県内にある天理大の白川グラウンドでは、ラグビー部の岡山仙治主将が声を張っていた。細かくシチュエーションごとの指示を出しながら、防御連係の練習を引っ張る。
翌20年1月2日には秩父宮ラグビー場で、大学選手権の準決勝に挑む。対する早大はSHの齋藤直人主将、SOの岸岡智樹を軸に多彩な攻撃を繰り出す。それだけに「相手の展開力のあるアタックをどう止めるかが肝になる」と岡山。さかのぼって12月21日には、大阪・東大阪市花園ラグビー場での準々決勝でその防御が崩れていた。流経大を58-28で制した80分を踏まえ、こう展望するのだ。
「(防御ラインに)ギャップができたり、見る人(相手)が違ったり、声がなかったり。ひとりひとりがバラバラにディフェンスしていたところがあった。チームでやらないとザルみたいになるので、修正しないと。(早大戦では)相手の9、10番のさばき、相手のオプションが多いところに対応する。相手が臨機でボールをスペースに動かすのに対し、自分たちも臨機でディフェンスする。運動量、ブレイクダウンの質(が大事)」
倒れたらすぐに立ち上がり、しかるべき位置に立ってラインを形成する。もし接点に絡みつくのなら、確実にターンオーバーを奪えそうな時などに限る…。身体をぶつけ合いながら、細かく打ち合わせる。
2シーズン連続の決勝進出、初の優勝に向け、こう意気込む。
「天理はディフェンスから。ディフェンスがよければ流れに乗れる」
大阪・大池中、島根・石見智翠館高を経て天理大入り。身長168センチ、体重89キロと上背こそないが、強烈なロータックルとジャッカルを長所に2年だった2017年からFLの主力へ定着。昨季は20歳以下日本代表の主将に抜擢された。
今季は現パナソニックの島根一磨から、主将の座を引き継いだ。当初は前年度以上の成績を残したいと強く思ったり、島根のリーダーシップに感嘆したりし、「考えることはあった」。しかし昨年5月頃、島根その人からこう言われたという。
「人を目指さんでいい。自分らしく」
視界が広がった。周りを見れば、部員を引き締める下級生がいるのにも気づいた。「自分だけでやらなくていいと考えられるようになって」。この日は得意な防御のトレーニングとあって自らが陣頭指揮を執ったが、肩の力はほどよく抜けている。
日本の学生ラグビー界では、全国大会で上位進出を果たした限られたチームのみが正月をまたいでプレーできる。岡山は、その喜びを主将として噛み締めている。
「高校1、3年の時、大学でも1、3、4年で正月を越えさせてもらっている。これは嬉しいというよりも、安心感です。スタート地点に立てた感じはします。逆に、正月を越えられなかったときは喪失感があったので」
練習後は選手を集め、グラウンドの向こう側を見据えて「拝礼!」。その号令で、全部員が首を垂れる。特別な宗教行事では、内部進学してきたリーダーにいろいろなことを助けてもらう。その代わり、普段のトレーニング時は最初から最後まで「天理ラグビーが好きなんです」との気持ちを示す。
正月2日の大一番でも、天理大の防御を自分らしく引き締める。