ラグビーリパブリック

「絶対にやろうと決めていたサイン」で歓喜の1トライ。不屈の山形中央。

2019.12.31

山形中央LO菊池優希のトライシーン。すぐに仲間が駆け寄った。(撮影/松村真行)



 キックオフから15連続トライを浴びていた。ビハインドは99点だった。それでも準備していたプレーで、全国強豪から1トライをもぎ取ったチームがある。

 2年連続26回目の花園出場となる、山形中央だ。

 第99回全国高校ラグビー大会“花園”の1回戦。12月28日、東大阪市花園ラグビー場の第1グラウンドでおこなわれた午前11時15分キックオフの第1試合で、兵庫・報徳学園は162−5で山形中央を下した。

 162得点は大会史上最多。2016年度に東福岡が記録した139得点を更新した。

 報徳学園は前半12トライを挙げて80−0で折り返したが、後半も12トライ。後半始めから選手8人を交替したことにより、高い集中力が持続した格好だ。

 途中出場選手も存分にアピールした。FB山田響キャプテンに替わり後半のキッカーを務めた伊藤学は、コンバージョンキックを12回中11回成功させた。

 前半に11本を決めたFB山田キャプテンを含め、88%(24回中21回成功)というゴールキック成功率が記録更新に寄与した。

「タックルのところで人数をかけてしまい、外に回されてしまいました。もうちょっとディフェンスで頑張れるかなと思いましたが、報徳学園さんのテンポに追いつけませんでした」

 そう振り返った山形中央の佐藤大志監督は、落胆の色を隠せなかった。

 厳しい環境のなかで戦っている。平成の初頭は「50人前後」(佐藤監督)の部員がいたが、少子化により減少。今大会の選手19人は出場校で最小だ。

 山形県予選の参加校は4校だった。県内で実質稼働するラグビースクールは1校のみという事情がある。

 また、県内の中学校でラグビー部があるのは山形一中だけ。ちなみに花園ラグビー場がある東大阪市には、ラグビー部のある中学校が市内だけで14校ある。

 近畿勢と比べて環境面で厳しいが、選手はポジティブだ。山形一中で野球から転向したHO工藤翔キャプテン③が言った。

「人数が少ないので半分にわけてコンタクト練習をします。そのぶんフォワードの能力がバックスについたり、バックスのハンドリング能力がフォワードについたりします。少ないことをマイナスに捉えるのではなく、プラスに考えています」

 しかし考え方ではフォローできない面もある。

「相手が15人いないので、やりたいサインプレーが試せません。人が入ってきてくれると嬉しいです」

 相手がおらず日頃試すことができないサインプレー。しかし聖地花園の第1グラウンドで、今シーズン初対戦だった近畿勢を相手に、そのサインプレーからトライをもぎ取ったから当人達も驚いた。

 スタートから15連続トライを浴びていた後半11分だった。スコアボードに刻まれた数字は0−99だった。

 しかしラックでの相手反則から、敵陣左の22m内でラインアウトの好機。チームは覇気を失ってはいなかった。
 
「僕を含めて2、3年生が中心になって、『顔を上げよう』『笑顔で楽しくプレーしよう』とずっとコールをしていました」(HO工藤キャプテン)
 
 ラインアウトからHO工藤キャプテンがスローイン。モールを組むと見せかけ、ループの格好からHO工藤キャプテンが突進。ゲインラインを大きく超えた。
 
 生まれたラックでプロテクトを担当したのは、なんとハーフ団。SH設樂優太郎③とSO鑓水力暉也(やりみず・りきや)①だ。
 
 そのSO鑓水の兄で、NO8飛暉也(ときや)がすぐさまショートサイドへパスアウト。ボールを受けたのは小学3年から中学までバックスだったLO菊池優希①だ。
 
「外が空いていたのでパスをしました。(一連のプレーは)ずっと練習していて、絶対にやろうと思っていたサインプレーです」(LO菊池)

 元バックスの菊池のパスを受けたのは、同じく1年生LOの吉田伊吹。サッカーに熱中した小学校時代はディフェンダー、中学3年時はキーパーだった。

 内側へステップを切り、タックルを受けながら長身を活かして執念のグラウンディング。第1グラウンドに拍手が沸き起こった。

「みんなで1トライを取ろうと言っていて、みんなで喜べて良かったです。みんなが同じ気持ちで喜べました」(LO吉田)

 最後はロックの1年生コンビの連係からトライを奪った。大学でもラグビーを続けるキャプテンは、後輩に希望を託した。

「あのトライで1年生の強さが出たので、来年にも繋がります。それを全国の舞台でもっと発揮してもらいたいです」(HO工藤キャプテン)

 この日花園第1グラウンドを経験した2年生4人、1年生7人が、最後まで団結していた山形中央の歴史を、これから受け継いでいく。ラストの24本目の失トライでも、全員でキックチャージへ走った。

 新年度の県内新人戦では、今年も合同チームからのスタートになる。ワールドカップ効果での部員増にも期待しながら、来年度は一回りも二回りも大きくなって、またここへ戻ってきたい。

「1年生で強い相手と戦って、全国との力の差が分かりました。これから個人、チームの力を上げていって、来年には悔し涙ではなくて勝って、勝って、目標の3回戦に行きたいです」(LO菊池)


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