色白で丸刈りで眼光の鋭い細身の若者が、「浦和」と書かれたホワイトのジャージィをまとってロッカールームを出た。背番号は12。ネイビーのパンツは高い位置まで上がっていた。
12月30日には全国高校ラグビー大会の2回戦が大阪・東大阪市花園ラグビー場であり、6年ぶり3回目の出場の浦和高はトンガ人留学生を擁して初出場の青森山田高と対戦。3つあるグラウンドのうち端側の第3グラウンドで開催予定だったが、「天候と日没」を公式の理由に会場が変わる。代表戦などをおこなう第1グラウンドのバックスタンドには、埼玉県下有数の進学校である浦和のOBと見られる男性がずらり。その下にあるのが、選手の控室だった。
果たしてその12番の東島和哉は、緑の芝で鈍い音を響かせる。失点後のキックオフでは落下地点へ駆け上がってタックル。自陣から攻めまくる青森山田高がトライして作った試合の流れを、リセットさせにかかる。FW陣のタフな防御とモールが浦和の長所とあって、BKのCTBに入る東島は「どうしてもFWを酷使する。キックオフの時はBKが追う」と心がける。
鮮烈な印象を残したのは、21-21と同点で迎えた後半13分頃。敵陣中盤左の相手ボールスクラムからボールが出ると、相手CTBの三上太陽にロックオン。
「絶対、内(接点に近い側)に切ってくる。捕まえてやろう」
バコッ!
肉が肉を打つ音が鳴った次の瞬間、近くにいた味方選手のジャッカルが青森山田高の反則を誘う。東島はガッツポーズ。直後の攻めは未遂に終わった浦和高だが、17分、25分と加点して33-21と点差をつけた。
終盤には青森山田高のCTBのハニテリ・ヴァイレアの個人技で33-28と迫られたものの、最後は東島と同じ大宮南中出身でNOの松永拓実主将が好ジャッカルを連発。33-28で逃げ切った。
攻めても小道をすり抜けるランを披露した2年生の東島は、海外の留学生と対戦した初めての試合で競り勝った。対するNO8のリサラ・フィナウにもフットワークとフィジカリティで苦しめられたが、想定以上の脅威は感じずにいられたという。
「規格、身体能力が違うトンガ出身の2人は、2枚(2人がかり)でつぶすということをやっていました。結構、抜かれちゃいましたけど、何回も、何回も止められた」
身長178センチ、体重80キロ。中学時代はバスケット部だったが、高校から転向した。「深い理由はないんですけど」。未経験者が部員51名のクラブでレギュラーとなったのは、強烈なタックルゆえだろう。三宅邦隆監督は「けがをしないように」と注意する。
「最初は怖くなかったのですか」と聞かれた本人は、「いや。全然、怖くなかったです」と淡々と返す。
「たぶん、負けず嫌いってのもあると思うんです。ハンドリングとかだと経験者には勝てないけど、身体を当てることだったら経験者に勝ちにいけるから、(タックルが)できるようになった感じです」
丸刈りにしたのは玉島高との1回戦を5-0で制した翌日。宿で自らバリカンを持った。最上級生が練習の合間に受験勉強をするなか、2年生の東島はあくまで冗談の口調で「(現役で)いい大学へ行きたいですが、いまからでも浪人を覚悟しつつ…」。タックルの魅力に憑かれた秀才は、2020年1月1日も花園の第1グラウンドに現れる。相手は、神奈川県代表で優勝候補の桐蔭学園高だ。
「いまの3年生たちと、どうしても正月を越えたかった。それが実現できて嬉しくて…。桐蔭学園高にどこまで通用するか、全員で確かめてみたいです」