落ち着いたレフリングで選手たちの力を引き出した。
平常心を貫いた結果だ。
12月27日から花園ラグビー場で始まった全国高校ラグビー大会で、女性レフリーがホイッスルを吹いた。史上初めてのことだ。
扉を開いたのは、初日の大分東明×飯田を担当した高橋真弓レフリーだった。今回で99回目の歴史ある大会に「初」を刻んだ。
感謝の心を忘れない。
「女子の試合(過去のU18花園女子セブンズや15人制)に関わってきた方や、これまでの大会でアシスタントレフリーを務めてきた方々がいて、その実績が認められたからこそ、今回につながったと思います」
いい緊張感の中でキックオフを迎え、35-0の試合をマネジメントした。
高橋さんは日本協会公認の女子A級、セブンズA級レフリーで、過去にトップリーグでアシスタントレフリーを務めたこともある(2017年)32歳だ。
全国高校選抜大会、アシックスカップ(全国高校7人制大会)の舞台も経験済みで、普段から大学の下部リーグで笛を吹く。高校ラグビーの全国大会地区予選も任され、先月は神奈川の準決勝も担当した。夏には菅平へ行き、強豪校同士の練習試合を吹かせてもらったことも今回の花園に向けての準備のひとつだった。
第3グラウンドで刻まれた「初」の舞台に緊張感を持って臨むも、「試合が始まれば気にならなくなった」。いつも通りにやれた。
「これまでやってきたことを、一つひとつ丁寧にやりました。1回戦、2回戦の試合時間は(時計を途中で止めることなく)ランニングタイムでやっているので、インプレーが長くなるように気をつけました」
プリベントコール(反則をさせないための事前の声かけ)も的確。それでいて互いがしっかりコンテストできるようにした。両チームのやりたいことも頭に入れてゲームを進めた。
10歳の時に府中ジュニアラグビークラブで楕円球と出会い、すぐに、このスポーツの虜になった。
中高時代はバスケットボール部に所属も、ラグビーはいつも頭の中にあった。日体大に進学すれば女子ラグビーに打ち込めると知り、高校は同大学の系列である桜華女学院(現・日体大桜華)に進学し、休み時間にラグビーに興じたり、世田谷レディースに加わったり。日体大ではラグビー部に入り、CTBとして活躍する。15人制、セブンズとも、代表選手としてプレーしたこともある。
レフリーの道に進んだのは、卒業後に日体大でコーチをしている時だ。ケガをして自身のプレーを休んでいるタイミングで勧められたこともあり、志した。
2011年にC級レフリーとなり、知識と経験を積み上げた。先のワールドカップでも世界のトップレフリーたちのパフォーマンスを観察。「(選手への)声かけのタイミングがそれぞれで、勉強になりました」と話す。「チーム、選手と一緒に試合を作る」ことを心掛ける。
現在は女子ラグビーの活動に理解のあるデータバンク株式会社に所属。まずは国内の大学1部リーグの試合を担当できるようになり、その先へ進みたいと考えている。
その高橋レフリーのパフォーマンスを「さすが真弓さん。安心して見ていました」と話すのは、大会2日目の若狭東×郡山北工(36-21で若狭東の勝利)のレフリーを担当して、2人目となった上原睦未さん。31歳の九州協会公認レフリーだ。
上原さんは高橋さんと1歳違いで、日体大時代のチームメート。LOとして活躍した。浮羽ヤングラガーズ(福岡)でラグビーと出会い、中学、高校は、将来のラグビー復帰も頭に入れて陸上部に入る(800メートル走、1500メートル走など)。
その時期に手に入れたスピードと体力は、日体大でのプレー時やレフリーになった後に活かされている。
この世界を志したのは、大学卒業後に2年ほど働き、その後、教員として奉職した特別支援学校での出会いがあったからだ。職場で現役レフリーの影響を受け、指導者や選手とは違うラグビーとの関わり方があることを知った。
「大好きなラグビーを、誰よりも近いところで見られることも魅力でした」
愛好の気持ちは上達への近道。熱心に取り組み続け、めきめき上達していった。
3年ほど前から九州の大学レベルでジュニア戦や下部リーグの試合を担当。アシックスカップの経験もある。九州高校大会や福岡の花園予選準決勝も任された。
高橋レフリー同様、今夏は菅平で強豪校同士の練習試合も吹いた。コカ・コーラ所属のトップレフリー、麻生彰久さんを中心とした勉強会にも参加して知識を増やす活動も続けている。現在は福岡県立柳河特別支援学校勤務。個人トレーニングや映像を見ての研究も重ねている。
花園のピッチに立つときの胸中を尋ねると、高橋レフリー同様、「丁寧に」という言葉が口から出た。
「両チームの、この試合への気持ちも理解しています。そういうものも感じて、丁寧に、と」
いつもと変わらぬように。そう心がけたものの、普段より少しだけ早くから準備しはじめる自分がいた。心地よい緊張感の中で試合をすすめられた。
できるだけ選手同士でやってほしい。そう思っているから、プリベントコールの重要性を理解しながらも、喋りすぎないようにしている。
そして、互いの特性を出し合えるように事前の予習も忘れない。
12月30日の浦和×青森山田を担当することも決まった。両チームが力を出し切る60分のサポートをしたい。