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川合秀和は「環境に甘えていたところ」を反省。慶大、栗原体制1年目を振り返る。

2019.12.24

帝京大戦でボールキャリアーにプレッシャーをかけにいく慶大の川合秀和(撮影:山口高明)


 2019年11月30日、東京・秩父宮ラグビー場。慶大は、関東大学対抗戦Aの帝京大戦に挑んだ。今季は筑波大、日体大、明大、早大に敗れ、すでに大学選手権出場への道は絶たれていた。この日が慶大で最後の試合となる4年生の川合秀和副将は言った。

「4年間の思いを伝えたいと思った。前半から、動けなくなるまで走る。出せるまで出し切る。その気持ちで最後まであきらめず、自分の決めたことをやり切った形です」
 
 接点周辺をえぐるラン、ジャッカル、タックル後の起き上がり。身長168センチ、体重87キロという小柄なFLは持ち味をフル出力した。一昨季まで9年連続日本一で先発FWの平均サイズが慶大を5センチ、6.7キロ上回る帝京大に29-24で勝利。終盤になってやっと会心の白星をつかんだことに、今季就任の栗原徹ヘッドコーチはこう述べた。

「後がないという必死さが足りなかった。それを作ってしまったのはヘッドコーチである私の責任。その反省を踏まえ、春から危機感を持って準備していくことしかないと思っています」

 NTTコムで指導歴のあるOBの栗原がヘッドコーチになったのは今年から。元早大コーチの三井大祐を招いて話題を集め、部員へは状況判断力の向上を求めた。しかし5月以降の関東大学春季大会Aグループでは1勝4敗と低迷し、対抗戦でも昨季勝利した相手に屈するなど苦しんだ。

 11月23日の早大戦ではCTBの栗原由太主将いわく「自分たちにフォーカスする。慶大らしさは何かを突き詰めようとした」ことで10-17と善戦も、大学選手権への連続出場記録は21で途絶えてしまった。指揮官のシーズン総括を受け、船頭役は「結果論になりますが」とこう言葉を添えた。

「いま考えると、もう少し自分たちを見つめる機会を増やして、自分たちの芯を確認し、そこへメンタルを持って行ければまた違った結果になったとは思います。うまくいかない時こそ自分たち(の原点)に立ち返ったら、自ずと答えは見えてくると感じました」

 もっと自分たちを見つめ直すべきだった。帝京大戦で殊勲をあげた川合もまた、栗原主将と同じように考えていた。

 日本ラグビー最古豪の名門はいま、トップリーグで指導歴のある首脳陣を擁し、他校のようなスポーツ推薦制度はないものの海外出身者向けの受験制度やAO入試の利用で有力選手のリクルーティングに注力。バックアップが整うクラブにあって、川合は選手の主体性がより必要だったと反省した。

「環境が充実していた分、そこに甘えていたところがあった。負けた時にも選手からどんどんミーティングを重ねたりして、選手からどう勝ちたいかというものを大人に、チーム全体に示していくことが大事でした。ミスや課題はいろいろとあるんですけど、そこで自分たちが何をやらなくてはいけないかにフォーカスし、自分たちから発信して、バラバラになった皆をもとに戻すということが必要なのかなと思います」

 来季もプレーするメンバーに、貴重な反省材料を残したとも取れる。

「特にリーダー陣がどう導くか。士気を高める声など、小さいところに一貫性を持っていかないと。その反省はありました。リーダー陣は普通にラグビーをやっていればいい存在ではない。きつい時にいかに士気を高められるかという、あたり前のことかもしれないことをもう少し意識して取り組んでいれば、試合前のアップを含めて一貫性を持てたかもしれません」

 選手の能動的な姿勢は、実は首脳陣がシーズンを通して潜在的に求めた要素でもあった。栗原ヘッドコーチは「6年間(過去の指導歴)で一番勉強になりましたし、一番苦しかったし、一番楽しい1年でした」とし、こう締めた。

「学生と社会人で大きな違いはないと思っています。彼らとしっかり対話をして、彼らが何を求めているか、何が足りないか(を知る)。逆に、彼らの要望に(あえて)応えずに厳しさを…というところの配分が勉強になりました。ここに答えはないと思いますが、これからも勉強をして、その時にベストなことをできるよう、これまでの経験を活かしていきたいと思っています」

 2020年度シーズンへの再チャレンジは、もう始まっている。

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