ラグビーリパブリック

6季ぶりの大学選手権。日大・坂本駿介主将が勝って泣いたわけ。

2019.12.20

京産大FWと激しくぶつかる日大。写真右が坂本駿介(撮影:松本かおり)


 勝ったら泣けてきた。

「ちょっと、ほっとしたというのもありますかね」

 坂本駿介。日大ラグビー部の主将である。12月15日、埼玉・熊谷ラグビー場で大学選手権の3回戦に挑んでいた。

「自分たちがどこまでやっていけるのか、楽しみではあったんですけど、心配で、怖かった部分もあります。大学選手権は未知の世界だったので、自分がどうなっていくのかも全然わからなかった」

 大学日本一を目指すこのステージに日大が立つのは6季ぶり。現役部員にとっては未踏の地。3回戦は同部にとっての初戦とあり、坂本が「未知の世界」に震えるのは無理からぬこと。京産大に24-19で勝利すると、安堵の涙が頬を濡らすのである。

 青森は三本木農業高出身の好漢は言った。

「でも、次に向けて、もう一回やっていかなきゃいけない。いい準備して臨みたいです」
 
 簡単ではなかった。長所のスクラムで押し勝てなかった。京産大は右PRの寺脇駿が前にせり出すユニークな組み方をしており、その対応に難儀。寺脇と対面で組んだ左PRの坂本は、こう悔やんだ。

「事前のミーティングでも(京産大には)真っすぐ組ませてもらえないという印象があって。それに対して自分たちは真っすぐ組んで勝とうとしていたのですが、実際にやってみたら自分が相手の3番の動きを断ち切れず、相手に乗られてしまって……。自分たちのいいスクラムが組み切れずに……という感じでした」

 相手に対する身体の向きや互いの方の位置を「真っすぐ」に揃えることを意識したものの、寺脇に力を集約させた京産大の立ち合いに後手を踏んだのだ。今田洋介スクラムコーチは天を仰いだ。

「(練習では)控え部員に(京産大と)同じように組ませるなど想定もしてきましたが、(本物の京産大は)練度が違いました」

 もっとも今田コーチは、「今年、強みのスクラムをふさがれて勝ったのは今回が初めて」とも話す。加盟する関東大学リーグ戦1部でも、スクラムで強みを発揮できなかった東海大戦は7-50と大差で落としている。だから「違うところで地域を前に進められたり、点を取れたりしたことには選手の成長を感じます」とも続けるのだ。

 この日は、自陣のスクラムで反則を犯してもその後の防御で粘る。攻めては17-12とわずか5点リードで迎えた後半17分、敵陣中盤左中間でFBの普久原琉が光る。

 連続攻撃のさなか、ぴょんと跳ねながらCTBの齊藤芳徳からパスをもらう。左斜め前方に身体を向けたまま、防御ラインの手前まで迫る。

 一転、またも飛び跳ね、右側へコースチェンジ。普久原を捉えにかかっていた2名のタックラーをひらりとかわし、低重心の走りでインゴールまで一直線。直後のゴールキック成功で24-12。貴重なスコアが決まった。

「本当はもういっこパスする予定だったんですけど、自分の判断で行きました」とは、殊勲のトライを決めた普久原。沖縄のコザ高時代は2年時から主将を務めたルーキーは、かすかに微笑んだ。

「緊張しました。こんなに大きい舞台でやるのは初めてなんで。でも、後半は結構、吹っ切れてできました」

 現役時代に全国4強入りした中野克己監督が就任したのは、4季前のことだ。同部のお家芸だったFWを軸にした戦い方を実現させるべく、フィジカリティの強化に着手してきた。2017年からは週に2回のペースで今田コーチによる早朝スクラム練習を実施。現体制発足当初はチームの定めたウェイトトレーニングの時間へ選手が揃わぬこともあった。しかしいまでは、当時の新人だった坂本らがグラウンド内外で規律を守るよう呼び掛ける。

 毎朝の清掃を4年生が音頭を取ったり、食事を摂らない部員が出ないようチェック機能を強化させたり。川田陽登寮長、昨年11月から寮の管理人となった大相撲・元大日ノ出の西田崇晃も、規則正しいクラブ作りの流れを作った。

 さらに芝の上では、スクラムの「修正力」が高まったと今田コーチ。リーグ戦の開幕3連勝を決めた9月の大東大戦でも、ハーフタイムの対話を通してスクラムの優劣を変えることができた。最後は22季ぶりのリーグ戦2位と、昨季5位からのジャンプアップを遂げた。

 大学選手権の初陣を経て主将が泣いた裏には、かような時間の積み重ねがあるのだ。

 緊張のファーストラウンドを抜けた先には、試練のセカンドラウンドが待つ。21日に大阪・東大阪市花園ラグビー場でおこなわれる準々決勝では、過去優勝15回の早大とぶつかる。世闇に包まれた熊谷のスタンドで、坂本は全部員に声をかけた。

「次は早大戦。私生活から厳しくしていきましょう!」

Exit mobile version