勝利の瞬間、スタンドからは『ビクトリーロード』が響く。ラグビーワールドカップ日本大会で8強入りした日本代表のチームソングを、この秋から歌うようになっていた。
2019年12月15日、埼玉・熊谷ラグビー場。全国大学選手権の3回戦で、流経大のラグビー部が一昨季まで9連覇していた帝京大を43-39で破った。背番号6で4年の粥塚諒は、笑顔だった。
「4年間、流経大にいますけど、今年の応援はいい応援です」
試合終了まで約5分間、自陣でボールを保持して時間を使った。帝京大の接点への身体の差し込みは鋭利でタフだったが、この選択に迷いはなかった。というのも、加盟する関東大学リーグ戦1部の東海大戦では似たシチュエーションでキックを選択。相手の蹴り返しの処理を誤るなどし、後半ロスタイムの失点で21-26と逆転負けを喫していた。同じ轍は踏むまいと、粥塚は決意していた。
「東海大戦も同じような状態で、キープするかキックかで、キックを選んだ。それで負けた記憶がある。で、あのエリア(自陣深い位置)でもFWが頑張る、となりました」
序盤から攻撃がはまった。両タッチライン際に好ランナーを配する流経大は、帝京大の防御の穴をその大外に見出す。特に暴れまわったのは、右端に立ったWTBイノケ・ブルア。タックラーを次々とかわし、捕まった際も周囲の味方に適宜オフロードパスを放った。
粥塚も前半3分、敵陣22メートルエリア右でブルアからオフロードパスをもらいフィニッシュ。直後のゴールキック成功で12-0と主導権を握った。チームは一時31-39とされるも後半29分、32分の連続トライなどで勝ち越し。そして最後は、逃げ切った。
粥塚は、攻撃の大枠を振り返った。
「自分らのフォーメーション上、外に強いプレーヤーを置くようになっている。(中央の)FWが前に出たら外のスペースを狙うイメージです。帝京大は飛び出るディフェンス(方式)をしていなかったなか、自分らの攻撃スタイルが合った(かみ合った)。よかった」
かくして全国8強入り。この背景を問われた流経大陣営は、組織に一体感があったと口を揃える。
チームは例年、夏にはハイパフォーマンス、ドラゴンズ、バーシティと3チームに分かれる。大学日本一を目指すハイパフォーマンスが事実上の1軍にあたり、その他のチームはそれぞれ東日本トップクラブリーグのディビジョン1、ディビジョン2に加盟する。
全グレードの選手が公式戦へ出られる一方、選手登録の関係上チーム分けがなされた後の入れ替えはない。ハイパフォーマンスに入れなかった4年生は、どのチームの部員よりも早くレギュラー入りへの道を絶たれるのだ。
モチベーションの濃淡が発生しやすそうでもあるが、今季は主戦FLいわく「下の(メンバー入りに絡まない)4年生が自分らを応援してくれる。練習がない時でも自分らを応援してくれて」。今季は関東大学春季大会Aグループで1勝2敗2分とやや低迷し、特に帝京大には19-50、早大には24-51と、全国上位校のひしめく関東大学対抗戦勢に苦しめられていた。8月には昨季日本一の明大と練習試合をしたが、ここでも20-61と圧倒された。
しかし、「負けている時でも勝っている時でもそういう(ネガティブな)雰囲気を作っちゃだめだ、チーム全体で戦うんだというの(意識)を掲げた」と粥塚。春先にはやや寂しかったという応援は、秋が深まるにつれ「引退する4年生がそういうことを意識するように」。グラウンドで踏ん張るファーストフィフティーンは、無形の力を授けられた。この日の熊谷でも、スタンドからは割れんばかりの「RKU!」コールが響いた。
21日には大阪・東大阪市花園ラグビー場で準々決勝に挑む。メンバー外も巻き込む形で、関西王者の天理大にぶつかる。