ラグビーリパブリック

川崎兄弟の入替戦。関東学院大ラグビー部、3年ぶり1部昇格。

2019.12.13

中央が川崎清純、右隣の青いマウスガードをはめている選手が兄の龍清(撮影:松本かおり)


 ノーサイド直前、リードはわずか3点。途中で味方選手が一時退場処分を受けたため、相手より1人少ないまま自陣で守ることとなった。関東学院大ラグビー部で副将を務める川崎龍清は、心で誓った。

「前に出る時は揃って上がる」

「横の選手と手をつなぐ感覚で並ぶ」

 それは試合前に確認した、防御の約束事だった。 

 2019年12月8日、埼玉・熊谷ラグビー場。関東大学リーグ戦の入替戦である。2部2位の関東学院大は、1部7位の拓大の最後の反撃を受けていた。身長184センチ、体重100キロの4年生LOは、ラインアウトでは相手ボールのスティールを試み、防御網に入ってはロータックルと素早い起立を繰り返した。

 関東学院大のベンチには、2年生WTBの川崎清純がいた。龍清の弟だ。身長190センチ、体重100キロという恵まれたサイズとスピード、キック力を誇り、ラグビーを始めたばかりだった高校1年時に7人制の強化機関であるセブンズアカデミーに招集された逸材。大学1年時には同日本代表としてアジアシリーズの香港大会でプレーした。

 この日は先発し、自らのハイパントで前半4分の先制トライをお膳立て。後半24分に退き、身体を張る兄たちに最後まで声援を送った。

「勝ってくれると信じ、見守っていました」

 ノーサイド。31-28。1997年度から10季連続で大学選手権決勝へ進んだ関東学院大が、3季ぶりの1部昇格である。

 兄は、矜持を覗かせた。

「2年間、弟と一緒にできて楽しかったです。僕より弟の方が有名。弟になりたいとは思いませんが、兄貴としてはありたい。一歩、上にいようとは思っています。ひたすらタックルです」

 龍清が岩手の盛岡工の土木科へ入ったのは、卒業後すぐに就職するため。高校で始めたラグビーは3年間できっぱり辞めるつもりだった。

 卒業までに「計算技術検定、パソコン利用検定、土木施工管理2級」と複数の資格試験をパス。実地経験を積めば工事等の現場監督ができるようになった。進路選択の際も、ラグビー部入りを前提にした大学進学の誘いへは応じなかった。

 しかし、関東学院大の勧誘はとにかく熱心だった。そのラブコールを「3回くらい」は断ったという龍清だが、板井良太監督に何度も足を運んでもらうなかで考えを変える。すでに在籍していた1学年上の先輩やカントーのOBである父の同級生に話を聞いたら、雰囲気のよいクラブだとわかった。家族と相談のうえ、単身で神奈川県にあるクラブの寮へ入った。入学した2016年度は、4シーズンぶりに1部昇格したシーズンだった。

ラストイヤーは副将として関東学院大をけん引した川崎龍清(撮影:松本かおり)

「おい、何で2部に落ちてんだよ!」

 自分を慕って関東学院大に入る清純にこう言われたのは、龍清が3年目のシーズンを迎える頃だったか。17年度の入替戦に出場も、専大に38-43で敗戦。翌18年度は同2部でプレーするのだが、いざシーズンに入るとあらゆる面で1部と2部との違いを痛感することとなる。

 対戦相手のレベルはさることながら、試合のできる環境に大きな隔たりがあった。会場の多くは観戦スペースの限られた質素なグラウンドばかりで、トレーナーにテーピングを巻いてもらう場所が屋外にしかないこともざらだった。弟たち下級生を1部でプレーさせられないことに、申し訳なさを覚えた。

 今季も引き続き、1部昇格を目指した。18年度は2部で全勝優勝を果たしながら、熊谷での入替戦では中大に29-47で敗れている。

 最終学年となった龍清は、「今年は同じ轍を踏まないようにしたかった」。当時の根本的な課題に手をつける。

 選手同士で物事を決める習慣を作り、大きな試合で問題が起きても落ち着いて解決できるようになりたかった。そのために、普段から話し合う機会を増やした。

「今年は皆で話し合って、皆で盛り上げる。チームで動くことを意識しました。ミーティングを学生中心でやろうとしたり、練習中の声かけを多くしたり。個々の力は去年の方が強かったかもしれませんが、最後(入替戦)では自分たちでミスをして、それを改善できなくて、そのまま、負けてしまった。同じことはしたくない。試合中のグラウンドには選手しかいないので、(普段から)自分たちで発信することをしました」

 勝負の入替戦で、その成果は現れる。清純は自陣から脱出する際にタッチキックを蹴っていたが、時折チャージの網にかかりそうになったのを受けて蹴る前の立ち位置を修正。圧力から逃れた。

「去年の入替戦も自分が出て負けたのですが、最初(立ち上がり)さえうまく入れれば、いける自信があった」

 一時は17-28と11点ビハインドを背負ったが、龍清ら4年生は心のなかの焦りを抑えて「ここで沈んだら去年と一緒だぞ! 絶対に声を掛け合え! 走れ!」と言い合った。その延長線上にあったのが、後半32分、38分の連続トライによる勝ち越しと、クライマックスシーンでのタックルの嵐だった。

 龍清は卒業後、国内トップリーグのクラブへ加入予定。高校時代に取った資格が「使うことはなくなりました」と笑う。

 兄と同じ高校の機械科で「アーク溶接、ガス溶接、3DCAD」の関連資格を取っていた清純もまた、競技活動で未来を切り開くかもしれない。兄たち4年生とつかんだ1部のステージで、スケールの大きなプレーを披露したい。

3年生になる来季、中心選手として活躍が期待される川崎清純(撮影:松本かおり)