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「最弱の学年」が旋風。大学選手権に臨む日大の革新

2019.12.12

大東大戦でトライを挙げた日大・坂本駿介主将。リーグ戦のベスト15にも選出された



 22年ぶりの関東リーグ戦2位。充実のシーズンについて聞かれた日大のPR坂本駿介主将は、真剣な表情で振り返った。
 
「自分達は先輩から『お前ら最弱だ。ヤバいぞ』って言われていたんです」

 2016年入学で現在31人の4年生。花園出場経験者は少なく、高校日本代表もいない。それもそのはず、その入学前年の日大は2部。リクルートに苦労した年だ。

 1部再昇格の’16年は7戦全敗。残留が精いっぱいだった。点差を広げられては意気消沈。なかなか鼓舞する声が出ない。思えば、私生活や普段の練習からそんな空気が漂っていた。

「まだやんのかよ」

 同年に15年ぶりに現場復帰した現監督でOBの中野克己は、そんなふてくされたセリフを鮮明に覚えている。例年より厳しい練習に、上級生の一部が反発していた。

「弱さを誰かのせいにするような、流されるような空気があった。自分達にベクトルが向いていなかった」
 監督はそう述懐する。

 練習で手を抜くのはまだマシ。悪態をつきチームを離れる部員も複数いた。レギュラー組が練習から帰ってきた寮では、試合に出ない選手がゲームに興じて騒いでいる。坂本主将らは1年生の頃から、そんな一部の部員の姿勢が疑問だった。

「オフに同学年で出かけた時も、絶対こんなはずがないよって。俺達がこれに染まるのは違うだろって。いつもそんな話をしていました」

 クラブの設備など環境自体は年々良くなり、最下位から6位、5位と徐々に成績も上向いた。だが、不満分子の行動を見逃していたことで、一体感を作るのは難しかった。

 坂本が4年生になった今年。同級のレギュラーこそ少ないが、SO吉田橋蔵、WTB杉本悠馬、寮長のHO川田陽登らを中心にミーティングを繰り返した。最上級生として生活面の軸になることを決めた。掃除を全員でやる、時間を守る、起きて朝食をきちんととる。疎かになりがちな集団生活の細かい部分を見直した。

「とにかく私生活のルールを厳しく。決まりを守れないと絶対にプレーも悪くなるので。今までは試合に出る人と出ない人との温度差がすごかった。それは関係なく、一人ひとり『4年生という役職』の大事な立場になって全員でやり切ろうと。問題があれば厳しく言い合ってきた」(坂本主将)

 早朝5時過ぎから取り組むなど練習の厳しさも増したが、それに耐えられるチームの雰囲気づくりに腐心。6年ぶりの大学選手権出場を勝ち取った裏側には、「史上最弱」とされた学年の結束と強い意志があった。

 中野監督は言う。「4年生の頑張りが実を結んだ。自分達で厳しくすると示してくれた。これからはこの環境が基準。才能ある1、2年生は、今の規律や練習の厳しさが当たり前になっている。彼らもまた違う絵を描くと期待している」




 選手達が意識を変えただけでなく、組織の変革も形になった。

 2003年卒の川松真一朗は、現4年生の入学と同時にゼネラルマネジャー(GM)に就任し、チームの状況を案じてきた。

 外部からの指導者による体制でも結果が出ず、財務などで細かな問題もあった。それを根本から変えようと就任を要請したのが、学生時代にリーグ戦制覇の経験があり、大学選手権4強入りの1997年にもコーチを務めていた中野監督だ。

 有名指導者を推すOBらの自薦他薦は聞かなかった。反発も意に介さない。「みんな二言目には報酬の額だの拘束時間がどうだの聞いてくる。そうじゃない。日大復活のために純粋に自分を犠牲にしてやってくれる人。それだけが条件だった。中野さんならそうしてくれる」

 川松GMにとって恩師で腹を割って話せる相手。中野氏もクラブ改革への気持ちを受け止めた。会社員をしながらの負担の大きさにも構わず、母校に戻った。

 GMは、自身と監督を補助する人材として、’06年卒で日大高出身の今田洋介に目をつけた。’17年から仕事の合間を縫ってチームに帯同する。選手や指導者としての実績はないが、誰もが一目置くラグビーの知識量とスクラム分析力を持つ。何より、自宅のある横浜から東京の稲城まで通い続ける情熱を評価した。

 中野監督、川松GM、今田コーチという3人のOBが、役割分担をしながらクラブ運営をする体制が整った。ラグビー自体のこと、選手の生活や進路指導、事務局機能といったチーム再生のための項目を挙げ、学生の担当者と連携して組織を建て直した。

 そうして多岐にわたる実務と、指導現場が分業できたのは大きかった。
 プロのコーチ陣にグラウンドだけに専念してもらえる。山梨学院大などを率いた伊藤武ヘッドコーチは流経大OB。FW強化をメインに担当する川邊大督(元九州電力)は法大から。スポットコーチでBKにスキルを授ける森田茂希(元NEC)は立命大の出身だ。

「他大学と比べて決して良い条件ではないと思うが、みんな日本大学のために尽くしてくれている」とGMは言う。プロの熱心な指導と、週末や早朝の今田コーチによるスクラム強化。それを中野監督が、選手の規律面も含めて助言しながら統率する。

 川松GMは「有志OBで骨格を作りたかった。乱れていた輪が一つになりつつある」と胸を張る。全国に散らばるOBに連絡し、高校生のリクルート網も整備し直した。その成果は出始め、今年は例年にない程の有望新人も多く入った。

 改革を推し進め、リーグ戦に旋風を起こした。勢いのまま臨みたい今月15日、大学選手権初戦(熊谷ラグビー場)の相手は関西4位の京産大だ。

 中野監督と川松GMは「運命的なもの」と口を揃える。1部再昇格の’16年、遠征の試合相手探しに苦労する中、快く胸を貸してくれたのが京産大だった。
 大西健監督は本気のメンバーを出してくれた。スクラムで何度も電車道を作られ、驚愕した。

 翌年以降も交流は続き、大西監督から「強くなったな」と声を掛けてもらい、チーム作りの励みになった。今大会を最後に退任する名将に「恩返し」したい思いはある。

 東西の強力FW対決。坂本主将は「自分達も自信があるFWで、真っ向勝負して流れを作りたい」と意気込む。注目を集める戦いは、きっとさらに上昇するきっかけになる。

 無名揃いの4年生の結束で意識を変え、「日大のために尽くす」スタッフで建て直した自慢のチームで、いよいよ大舞台に立つ。

整列して校歌斉唱する日大の選手達