11月27日、本拠地の八幡山グラウンドで早朝練習を終える。明大ラグビー部4年の坂和樹は、落ち着いていた。
「伝統の一戦という部分もありますけど、対抗戦の最後の試合に勝ち切るという意識で練習に取り組めている。いままでしっかり準備したことが結果になっているので、(今度も)ひとつひとつの練習でしっかりした準備を(する)。きょうであれば朝練で時間がないなかですけど、その短い時間のなかでコミュニケーションを取って、質の部分は高めたい」
12月1日、東京・秩父宮ラグビー場で、加盟する関東大学対抗戦Aの最終戦をおこなう。早明戦と呼ばれる早大との試合だ。今度は25年ぶりに全勝同士での対戦が叶うとあって、試合のチケットは完売。注目度は高まる。しかし当事者である明大のNO8は、落ち着いている。淡々とした口ぶりで、あくまで今季の早大戦への展望を語った。
「早大はどこからでもアタックできるので、自分たちは粘り強くディフェンスする。早大はディフェンスもよく隙が無いチーム。でも、いつか自分たちの時間が来ると思うので、アタックでもしっかり粘って、自分たちの時間が来た時に(トライを)獲りきる」
明大中野八王子高から内部進学。豪快な突破力を長所に1年時からレギュラー争いに絡んだ。田中澄憲現監督がヘッドコーチとして入閣した一昨季からは、球を持たぬ時の運動量も磨く。身長182センチ、体重106キロの肉体に詰め込んだパワーを、攻防線上での突進、ジャッカルで発揮する。前年度は、大学選手権で22シーズンぶり13度目の日本一を味わえた。
攻守両面で「粘り強く」。そのチーム方針を体現する。
クラブのお家芸であるスクラムも、最後尾から押し込む。この攻防の起点に関しては、「早明戦では、いざ試合になったらスクラムがどちらに優位になるかわからなくて」と言及。「いま明大が強くても、試合になれば明大が押される局面もある」とも続けた。
接戦を招く伝統の一戦にあっては、スクラムに関する判定が揺れてしまいがち。どちらも笛の合図通りに組めたか、どちらも角度をつけていないかなどのディテールがどこまでチェックされるかは未知数だ。その時々の判定に首を傾げ、涙をのんだ明大OBもいる。
しかし坂は、そんな不確定要素にも動じない。何が起きても前向きに次善策を探る「修正力」を、いまのチームの強みとしてきたからだ。
「自分たちは修正力を大事にしている。1回ペナルティを取られたからと言って引きずるのではなく、次のスクラムでどうするのかといったコミュニケーションを取っていきます。レフリーが試合を決める。そこに反発するのではなく、順応する。レフリーが指示する(通りに)スクラムを組めれば」
レフリーに質問をする際は、必ずHOで主将の武井日向を窓口に立てる。その心は、「主将が(反則の理由を)話した方が自分たちも理解をしやすい」。もしも判定にいら立つ仲間がいても、いつも懸命に練習する主将の言うことなら耳に入るだろう。
「いままでならスクラムを崩したプレーヤーがレフリーに聞きに行っていたところ、いまは日向を通してコミュニケーションを取る」
坂にこう感謝される武井は「崩した選手が質問をする場合もありますが、(その時も)自分が(内容を)把握しておく」と応じた。
平時からひとつひとつのプレーの「質」にこだわり、本番では問題を解決する「修正力」を活かしたいという坂。早明戦の後も日々を丁寧に過ごし、大学選手権2連覇へまい進する。