11月23日、東京・秩父宮ラグビー場での伝統の早慶戦。
慶大から17-10と7点リードを奪っていた早大は、敵陣ゴール前右でラインアウトから攻撃を重ねる。接点から球を受けたSOの岸岡智樹は、レフリーのジェスチャーを見て「アドバンテージ」が出たと判断した。
「僕としては、いや、僕らとしては、そういう認識をしていました、というのが見解です。『アドバンテージだよ』とは言われないので、『アドバンテージがあるよ』というジェスチャーを見て……」
ここでの「アドバンテージ」とは、片方のチームが反則した後も相手側に有利な状況が続いていたら、しばらくプレーを続行させるという合図。「アドバンテージ」をもらってプレーする側は、ミスをしても反則の起こった位置でペナルティキックをもらえる。だからリスクのある選択ができる。ここでも岸岡は、かなり難しい角度からドロップゴールを狙った。
しかし……。
「ジェスチャーを勝手に見て僕らが判断してしまったのが悪いのかもしれませんが、そういうところの食い違いがきょうはあったのかなと」
そう。ここでは「アドバンテージ」は出ていなかった。岸岡は「食い違い」の末、蹴ったボールを相手に渡してしまう。自陣深い位置まで戻された。
「蹴って、相手が走り出してから気づきました。なぜ、走り出しているのに笛が鳴らないのだと」
最後は味方の献身もあって「僕たちが勝ち切るには値したと思います」と逃げ切りに成功したが、背番号10は試合を通じてレフリングへの対応、さらには雨と風に悩まされた。自陣からワンバウンドさせてタッチラインの外へ出したかったキックは、大きく流されて「ダイレクトタッチ」になる。「ダイレクトタッチ」の後は、蹴った地点付近での相手ボールラインアウトでプレーが再開される。ピンチを招く。
「(レフリーとの対応は)人と人とのコミュニケーション。お互いの認識をすり合わせる部分は改めて必要なのだなというのが課題であり、きょう得られたことかなと思います。僕個人のダイレクトタッチは……。あんなに風が吹いているとは、というところがありました。僕の感覚で言うと10~15メートルくらいはタッチに流れていったので。まさかという感じでした」
いまはすでに、次を見据えている。続く12月1日は、明大との早明戦に臨む。加盟する関東大学対抗戦Aの最終戦で、いずれも全勝同士。昨季の大学選手権で帝京大が連覇を9で止め、明大が22シーズンぶり13度目の優勝をしたことで、今度の早明戦の位置づけは変わっていると岸岡は言う。
あくまで、ディテールの徹底にこだわる。
「過去3年、どのチームをターゲットだと感じるのかと聞かれれば、僕らで言うと帝京大だったんです。これはどこのチームもそうだったと思うんですけど、帝京大学に勝てていないと大学日本一はないと。ただ今年は、昨年に明大さんが優勝したこともあり明大に勝たなければ大学日本一になれないと皆が認識している。ゲームプランはいつもと変わらない。早慶戦では慶大さんは『慶大らしさを突き詰めた』と話しておられました。早大も夏から使っている『早稲田クオリティ』という言葉を使い、早稲田らしさとは何か、自分たちが何をしなくてはならないか、スタンダードとしてどういうものを当たり前にやらなければいけないかを改めて(見つめ直す)。明大さんのやりたいことをやらせないのは当然として、自分たちのやらなければならないことをどれだけ徹底できるか(が鍵)です。ボールをもらう時はハンズアップ、パスはフォロースルーまで、声を出す……基本中の基本の勝負になる。自分のなかでアタックのシェイプがどうだとか、ディフェンスがどうだというのはありますが、(これから立ち返るのは)そこじゃない。いまだからこそ、基本中の基本に立ち返る」
ここまで9トライ奪取とランニングスピードにも定評のある司令塔は、当日、どんなタクトを振るだろうか。