ラストワンプレー。21-22と1点差を追う大東大は、敵陣22メートルエリア右まで攻め込んでペナルティキックを得る。
この日、SHの南昂伸のゴールキックは3本中3本と当たっている。対する流経大を24-22と勝ち越すチャンスが訪れたと言える。
しかし大東大のFLである佐々木剛主将はスクラムを選ぶ。試合を通し圧倒する場面の多かったプレーを起点に、逆転トライを狙う。
組む。スクラムでは最後列のNO8の位置に入った佐々木は、地面を転がる球を拾う。本来ならば左側から押して広いスペースを攻め上がりたかったが、そうならなかったため右のエリアに直進する。以後、大東大はフェーズを重ねたが、対する流経大のラックへの圧力で思うようにテンポを上げられない。
最後は右大外へのパスをインターセプトされ、そのままボールをタッチラインの外に出された。ノーサイド。11月9日、東京・秩父宮ラグビー場。関東大学リーグ戦1部で前年度2位の大東大は2勝2敗で、同3位の流経大は3勝1敗でこの日の対戦に挑んでいた。
「後半の最後は敵陣でプレーすることで自分たちの流れをもってこられたのですけど、最後のチャンスのシーンで自分たちのパワーよりも相手の集中力が上回って、やられてしまったなという印象です」
公式会見に出た佐々木は、お互いにエラーを重ねた一戦をこのように述懐。最後のプレー選択について「FWで話し合ってスクラムで、と統一しました。大東大の1番(左)側が受けて自分がオープンに行けなかったのはもったいなかったですけど…。キッカーは『PG(ペナルティゴールを)』とも言っていたのですが、スクラムで行こうと」と話していると、隣席の日下唯志監督が「最終的に南が『FWで行って欲しい』ということで、スクラムを選択したということです」と配慮する。佐々木はその後、スタンド下の通路を歩きながら改めて言った。
「南は蹴りたがっていて、キックというコールもあったんですけど…。(反則を得た地点からゴールポストまでの)角度があったのと、さっきも言ったようにスクラムが優勢だったので…。そうすね…」
身長180センチ、体重98キロの佐々木は、青森・八戸西高からラブコールを受け大東大入り。かねて相手をかわしながらパスをつなぐ攻撃技術が買われていたが、学年を追うごとにタフなタックルとリロードでも存在感を示すようになる。2年時は20歳以下日本代表にもなり、ウルグアイでのワールドラグビーU20トロフィーで身体を張った。
ラストイヤーは主将となる。青柳勝彦前監督から指名された。
「自分がやるとは思っていなかったんですが」
コーチから昇格した日下現監督のもとでは、首脳陣と部員とのパイプ役に苦心する。春先は走り込む方針のもと、「当たり前のことですが、皆の話を聞く。その意見がいいと思えば皆にも伝えるし、違うと思えばニュアンスを変えて伝える」。前年度以上のタフな練習へ首を傾げる選手もいたが、どうにかそれぞれの尻を叩いてきた。
今季のリーグ戦は8月31日に始まり(大東大は9月1日に初戦)、ラグビーワールドカップ日本大会の開催期間は一時中断。大東大の日下監督は、前半節3試合を1勝2敗で終えた時点でグラウンド外の規律の見直しについて言及。それに対して佐々木は「休み明けに寮の前の自転車の並びがガタガタだったりと、自分たちが注意すればできる部分が徹底されていない。そういう部分を言われたのだと思います」と応じていた。
ただし流経大戦後は、「オンとオフ(を切り替える)。遊ぶときは遊んで、グラウンドに入ったらしっかりとやろうというふうにしました」と話すにとどめる。
その心は。
「(諸注意は)前半にしっかり言ってきたので、後半はプレーに集中。(グラウンドの)外のことを言うと気が散る選手もいる。プレーをしっかりしよう、と言っています」
部員数89名の大所帯の先頭に立ち、多方向からの「話を聞き」、繊細なかじ取りを続ける。現在はリーグ戦計8チーム中暫定4位タイで、2試合を残す。16日には秩父宮で、同じ2勝3敗の法大とぶつかる。関東大学リーグ戦から大学選手権へ出られるのは上位3チームのみだ。