ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】トモ、帰る。ゲニア、来る。近鉄、戦闘態勢整う。

2019.11.06

トンプソン ルークの会見には多くのメディアが詰めかけた。



 断言しよう。
 90年の近鉄ライナーズの歴史で、こんなにたくさんのメディアが集まったことはない。
 21社39人。テレビカメラ6台。

「すごい数ですね。びっくりしました」
 チームの責任者のひとり、ゼネラルマネージャーの飯泉景弘も驚いた。
 今、世間の耳目を集める力がある。

 11月5日、東大阪市の花園ラグビー場であったのは普通の練習だった。高校ラグビーの全国大会ではない。
 しかも、近鉄はトップリーグにいない。2部のトップチャレンジ所属である。

 にもかかわらず報道陣が集結した最大の理由は、「トモ」ことトンプソン ルークにある。W杯終了後、初めてチーム練習に加わった。
 代表最年長、38歳のLOは日本開催の大会で4大会連続出場を決めた。この国では元木由記雄、松田努に次いで、3人目のレジェンドになる。

 それだけではない。
 SHウィル・ゲニアもこの日、合流する。9月に先着していたSOクウェイド・クーパーとともにオーストラリア代表=ワラビーズのHB団が東大阪において再結成される。
 2人のキャップ数は170(ゲニア=110、クーパー=70)を誇る。

 3人とも、試合形式練習では一軍にあたるAチームでプレーした。
 1時間半ほどの練習後、トモは記者会見に臨んだ。日本語と英語を交えて話す。

「ワールドカップは素晴らしい経験でした。あっと言う間に終わったね。代表に貢献できてよかったです」

 満足感を漂わせる。
 最終戦となった10月20日の準々決勝、南アフリカ戦(3−26)での先発を含め、5試合中4試合に出場した。
 解団後、生まれ育ったニュージーランドには戻らず、和歌山の白浜で温泉につかり、家族5人の団らんを楽しんだ。

「1週間ほどはメンタルも体もボロボロだったけど、いいファミリー・タイムを過ごせました。リフレッシュできました」

 そのトモには再び戦いの日々が迫る。
 トップチャレンジは11月15日に開幕する。近鉄は17日(日)午後1時、清水建設とヤンマーフィールド長居(長居第2陸上競技場)で初戦を戦う。リーグ戦は7試合だ。

「全部の試合に出たいね。そうなれるように練習でコーチにアピールしたい。そして、優勝したいです」

 今季はW杯の影響を受け、トップリーグは来年1月からの開催になる。それに伴い、入替戦はない。極端に言えば勝敗は関係ないが、トモには試合出場にこだわる理由がある。

「このシーズンが終われば引退するね。だから私にとっては最後の試合になる」

 再度、現役をのくことを明言した。
 14シーズンを過ごした近鉄での日々。ラグビー人生における有終の美を飾るためにも、昇格がなくとも、このチームを勝たせたい。
 強い意志がある。

 引退後はニュージーランドに戻る。南島にある第3の都市、出身地でもあるクライストチャーチで新たに牧場をする予定だ。食用にもなる鹿の飼育を考えている。そのための地所はすでに買い求めてある。

 飯泉を補佐するチームディレクターの吉村太一は話した。
「選手としての契約は終わりになるかもしれませんが、トモとチームとの関りをなんらかの形で考えることになると思います」
 功労者の位置づけに揺るぎはない。

 ゲニアはその生真面目さでトモの系譜に連なる可能性がある。
「目標はトップリーグ昇格です」
 2年契約を結ぶ31歳は力強く言い放った。

 初練習のこの日、発熱する。オーストラリアからの来日は先月31日。春から夏に向かう母国と日本の気候は真逆。体調を崩した。首脳陣は自宅療養を命じた。

「ところがね、昼過ぎにクラブハウスに来て、『大丈夫だから、練習をさせてくれ』と言うんですよ」
 飯泉はその熱意に感銘を受ける。

 初練習でも16歳以下のクイーンズランド州代表からコンビを組むクーパーとの息はぴったり。長短のパスを自在に放つ司令塔にボールを素早く供給し続けた。
「いきなりAチームに入ってもだれも文句を言えませんよね」
 SO出身の吉村はつぶやいた。

 この日はチーム広報の日下穂高のほかに、親会社にあたる近鉄グループホールディングスの広報も現場での整理にあたった。
 チームトップの顧問であり、ホールディングスの専務でもある森島和洋も姿を見せる。

 会社として期待感の大きさを物語る。2004年、オリックスに吸収合併されたプロ野球・大阪近鉄バファローズ以来、スポーツを軸に一丸となる組織の機運が高まりを見せる。

 部員たちは10月29日、大阪難波など近鉄沿線8か所で集客のためのビラを配った。
 チーム初となる4回の練習公開も実施中だ。10月22日を初日とする試みは、練習後、選手たちがサインや記念撮影にも応じるなど、ファンサービスも怠りない。

 トモが帰り、ゲニアが来た。クーパーはすでにいる。新人のFL菅原貴人やWTB髙野蓮も公式戦出場の可能性が高い。
 近鉄はもういつでも戦闘状態に入れる。

練習後、報道陣の取材を受けるSHウィル・ゲニア(左)とSOクウェイド・クーパー。


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