場内のアナウンスが「ロスタイムは4分です」と告げて約7分後、帝京大が勝ち越した。関東大学ラグビー対抗戦Aの再開後初戦を、24—22でもぎ取る。岩出雅之監督は言う。
「よかったことは、勝って反省できるという一点だけかと思います。技術的なものか精神的なものかはわかりませんが、未完成なところもたくさんある。特に前半は相手を見てしまっていて、まだまだ自分たちのやるべきことを把握できていない部分があったと思います」
11月4日、東京・駒沢陸上競技場。敗れた筑波大の嶋崎達也新監督はこうだ。
「最後の一歩。乗り越えなければいけないところを乗り越えられなかった。残念でした。実力を伸ばしてこの壁を乗り越えられるようにしていきたいです」
筑波大は前年度8チーム中5位も、今季は新体制のもと前半戦で同3位の慶大を撃破。古川拓生前監督時代のタフさを尊ぶ文化を継承しつつ、FBの松永貫汰ら好ランナーがスコアを生む。この日も前半21分に松永が好突破からのトライで12—5とリードし、同30分前後は自陣ゴール前でのピンチを我慢して切り抜けた。その他の場面でも鋭いダブルタックルとリロードを意識し、一昨季まで大学選手権V9という相手のミスを誘った。
15—12と3点リードで迎えた後半12分には、松永が自陣中盤右で防御のギャップを突いて突破。SHの杉山優平主将のトライをお膳立てする。直後のゴール成功で22—12とし、2015年12月以来の同カード白星に近づいた。
しかし終盤は、要所で反則を犯したり、陣地を奪いに行ったボールを相手FBに正面で捕られたりし、やや守勢に回る。決勝トライを奪われた場面では、筑波大の自陣ゴール前右でのペナルティに対して帝京大がスクラムを選び続ける。それまでスクラム後のプレーはNO8の安田司の突進が多かったが、最後の最後はループを交えたサインプレーでWTBの木村朋也が右隅にフィニッシュ。同点。コンバージョンゴールで勝ち越した。
岩出監督は、後半ロスタイムからリザーブにいたCTBの本郷泰司主将を投入していた。けが人が出ることを予感し、主将投入までのタイミングを引っ張ったのだ。最後のプレー選択については、本郷が「ずっとスクラムで(押し込んで)そのままトライできるのではないかと思っていたのですが、(最後は組む場所が)少しゴールから遠くなっていて、BKもスクラムからのサインプレーを用意していた」と説明。下級生主体の陣容を組む岩出監督は「そこは主将が入った(効果)。ずっとFWで行けそうで行けない状態が続いていたので、あの(最後に選んだ)オプションでよかったと思います」と話す。
敗れた島崎監督は、「最後の一歩」の真意をこう掘り下げる。
「このプレーが…というより、きょうのプレッシャーのなかでやらなければいけないことがやりきれなかった、その、積み重ねです」
筑波大は10日に埼玉・熊谷ラグビー場Bグラウンドで成蹊大と対戦。一方で帝京大は同日、東京・秩父宮ラグビー場で早大とぶつかる。岩出監督は「筑波大さんには本当に素晴らしいファイティングスピリットを感じました。敬意を表したいです」と締めた。