ラグビーリパブリック

辞任寸前から南ア代表を頂点に導いたエラスマス監督。「小さい目標を積み木のように」

2019.11.03

ワールドカップ優勝を遂げ、家族と喜ぶ南アのラシー・エラスマス監督(Photo: Getty Images)


「南アフリカの国のために戦い、この優勝カップを獲るということを決めてきた。非常に嬉しいし誇りに思う。多くの人々は私たちが優勝するとは思ってなかったかもしれない。しかし、ギブアップせずにやり遂げたことを誇りに思う」

 ウェブ・エリス・カップを目の前に置いての記者会見で、スプリングボックスと呼ばれる南ア代表チームのヨハン“ラシー”・エラスマス監督は冒頭にそう言った。

 47歳。選手時代にフランカーとして活躍し、1999年のワールドカップでプレーしたことがある指揮官は、分析に熱心な南ア屈指の戦略家として知られ、彼がスプリングボックスのテクニカルスペシャリストだった頃にキャプテンを務めていたヴィクター・マットフィールドは、「技術的に、ラシーより優れたコーチは南アフリカにはいない。世界で最もすばらしい指導者のひとりだ」と絶賛したほどの人物だ。南ア協会のゼネラルマネージャー、マンスター(アイルランド)の指揮官を経て2017年末に南ア協会のディレクター・オブ・ラグビーとなり、数か月後、解任されたアリスター・クッツェー前ヘッドコーチに替わってチーム再建を全面的に任された。

 だが、迎えた昨年のラグビーチャンピオンシップ(南半球4か国対抗戦)、アルゼンチンとオーストラリアに連敗し、辞任を考えた。
「監督を引き継いだとき、ワールドカップまで618日、テストマッチは18試合しかなかったので、たくさん小さい目標を立ててゲームのシミュレーションを試みた。例えば、『この試合は準々決勝だ、これに勝たなければいけない』というふうに、一つひとつ積み木のようにそれを積み重ねてきた。コーチとして3連敗したことはなかったので、アルゼンチンとオーストラリアに負けたあと、もし次にウェリントンでの試合に負けたら、スプリングボックスの監督としてふさわしくないので退任しようと思っていた。そして、ウェリントンでニュージーランド代表と戦った(36-34、敵地で9年ぶりにNZ戦勝利)。あれは本当に重要な勝利だった。あの試合でポジティブになり、勢いがつき、サポーターたちの応援が増した。そして我々は信念を持つことができた」

 12年ぶりの優勝を目指して臨んだワールドカップ日本大会は、プールステージの初戦で前王者のニュージーランド代表に敗れた。しかし、そこから立ち直り、ワールドカップで黒星を喫しながらも頂点に立った初めてのチームになった。
「監督として初めてのワールドカップだったし、初戦のオールブラックス(NZ)戦はプレッシャーにどう対応するかの大きなテストだった。我々はその週ひどい状態で、緊張していた。(しかし負けたことで)準々決勝や準決勝でどうプレッシャーをコントロールするかを学んだ」

 迎えた決勝ではイングランドに快勝。選手たちは堅守を最後まで貫き、スクラムでは何度も圧倒、フィジカルファイトは最後まで激しかった。「私たちの方が元気な選手が多かった」とエラスマス監督が言うように、選手の疲れも見事に管理した、スプリングボックスのプレーヤーマネジメントの勝利でもあった。

「このすばらしいワールドカップのホストを務めた日本に感謝する。そして、スプリングボックスのサポーターのおかげで、我々は日本での生活が寂しいと思ったことは一度もなかった。日本に来てくれたサポーターだけでなく、南アフリカで応援してくれた人たちにこの気持ちを伝えたい。フェイスブックやツイッターなどで何百万もの人たちが応援してくれているのがわかった。皆さんを愛しており、帰国するのが待ちきれない」

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