日本代表がもしアイルランドに勝ったら。もしスコットランドに勝って史上初の8強入りを遂げたら。まさかまさか南アフリカも勝ってさらに1週間、この熱狂が続いたら。
ネットやテレビ、新聞などの各メディアは、事態が起きたときに即時に出せるコンテンツを前もって用意しておかねばならない。
日本は特に、大会中に直接選手たちから取れる素材は限られていたので、「ネタ」は企画色をつけて過去のコンテンツに素材を求めるケースが多かった。専門誌あてに「◎◎選手の、高校時代の写真はありませんか」といった問い合わせを、大会期間中にたくさんいただいた(ありがとうございます)
本を作りながら過去の写真探しをする時間がずいぶん増えた。その過程で驚いたことがあった。トップ8入りを支えたもの。それ以上を目指すために必要なもの。
驚いたのは、ある大会の日本代表の多さだ。
松島幸太朗選手の桐蔭学園時代の写真を探していて、当時のラグビーマガジンを開いたら、花園(全国高校大会)第90回大会のベスト選手を集めた企画が出てきた。2011年3月号だ。
3年生も1年生もいるのだが、この年の出場選手から、なんと6人が、2019年大会の日本代表に名を連ねている。ポジション順で紹介すると、
姫野和樹(愛知・春日丘1年→帝京大→トヨタ自動車)
徳永祥尭(関西学院→関西学院大→東芝)
流 大(荒尾→帝京大→サントリー)
松田力也(伏見工1年→帝京大→パナソニック)
福岡堅樹(福岡→筑波大→バナソニック)
松島幸太朗(桐蔭学園→シャークスアカデミーなど→サントリー)
*学年なしは3年生
年代を代表する選手たちなので当然か。そうではないと思う。8年前の高校トップ選手が今もトップである例は稀だ。しかも、2019大会日本代表のうち、日本の高校出身者は20人を切る(そこにも別の価値はある)。その3分の1弱を、第90回大会の出身選手が担っている。
たまたま、自分も当時の誌面作りにあたっていたから懐かしい。ライターで選手の才能に眼ききの直江光信さんに候補を選んでもらったんだった。当時の存在感と今の堂々たる姿に隔たりがある人もいるし、もう同年代ではトップ中のトップだった人もいる。この時、すでに日本開催は決定していたけれど、2019年の今の景色を、2011年の彼らから想像することは難しかった。
この事柄には一つの示唆がある。選手を育てた人たちの素晴らしさだ。いやあれは指導ではなくて、才能でしょ、という見方もできるけれど、才能とは育った環境だと思う。環境で最も大きい要素はコーチや対戦相手を含む仲間、家族だ。
例えば大学のリクルーターは高校生のタレントを探す。高校の監督は中学生の才能に目を凝らす。中学のコーチたちは、「あの感覚は教えてできるもんじゃないよな」と教え子の長所に目を細めたりするだろう。
だけど、その才能はやっぱり、初めの初めからあったのではなくて、どこかの段階のある朝に、突然、ぴょこっと芽を吹いたものだ。
芽が出る要素がそこに、あったはずだ。
きっかけはコーチの方針かもしれないし、仲間の何気ない言葉だったかもしれない、家族との日々の中で受け取ったものも、相当に大きいだろう。無意識に磨かれた素養の場合もあるし、社会人になって発露したものが売りになる選手もいる。
植物でいえば、しなやかな幹や根っこや、それをかつてふんわり包んでいた土があって、てっぺんに2019の花が咲いた。この選手たちには、得難いことがたくさんあったんだろうと思う。
ジャパンの選手たちが持つ資質は、大会を経るごとにどんどん変わってきている。成長著しい日本だから、それがよりくっきりと見える。一つ前の大会のスター選手が、次の大会に呼ばれないのは、切ないが得難く厳しい生存競争の証。これからも、選手に求められる素養や才能は、変わっていく。第90回花園は、8年後の世界に対応できる選手たちの大会だった。
大事なのは今からですよね。
現在、各地では全国高校大会の予選決勝が週末ごと行われている。あす、横浜で世界一のチームが決まった翌日には、大学ラグビーが一気に再開ダッシュを競う。年が明ければ、待ちかねたトップリーグも。
ワールドカップ・ロスに浸っている場合じゃない。あんなショーアップもエンタタインメントもない、各地の寒風のグラウンドで、未来のジャパンが才能の芽を吹く瞬間を迎えようとしている。それを見守る、支える新しい人がこれからは必要だ。
ワールドカップで、試合に熱狂したラグビーファンや、ボランティア、行政でラグビーに関わったすべての人だ。アンセムを歌ったり、練習を見にいって選手と話したり、応援したり、道案内を買って出たりした。しかも、やってみたら自分も楽しかった。そんな人に、ぜひラグビーと、次のつながりを持ってもらえたら、と願う。
そうは言っても、私はラグビーの、土でも根でもありません。
確かにそうかもしれないが、ワールドカップで今までと違う光を差し、風を送り込んでくれたのは、新たにラグビーに関わってくれた人たちだ。「帰ってきた」人もいるだろう。思えばサンウルブズ の会場にもそんな空気があった。日本ラグビーにこれまでなくて、これから求められているのは、そんな人たち。植物でいうところの「光」や「風」だ。
ラグビースクールからトップリーグまで、各地域で、あのような心持ちで支えてくれる人が加わったら、きっとラグビーの周りはいっそう輝く。どんな関わり方がいいのか、は、ラグビーの「中の人」の発想と腕にかかっている。
一生に一度、で最後まで盛り上がったら、そのあとは、ずっと続くラグビーをご一緒に。ラグビーの「中」の皆さーん、これこそ一生に一度のチャンスかもです。