ラグビーリパブリック

絶妙の心理戦。エディー・ジョーンズ(ENG)vsスティーブ・ハンセン(NZ)

2019.10.26

元教師のイングランド、エディー・ジョーンズ監督。(撮影/松本かおり)

元警官のNZ、スティーブ・ハンセン監督。(撮影/竹鼻智)


 桜の戦士たちはベスト8進出という歴史を作って堂々と大会を去った。
 だが、楕円球を追う世界トップ国の闘いは、まだ続く。
 10月26日には、注目のニュージランド、オールブラックス×イングランドの重量級対決が横浜でおこなわれる。イングランド代表を率いるのは、ご存知、エディー・ジョーンズ監督。黒装束の大本命を率いるはスティーブ・ハンセン監督だ。

 接戦が予想された先週末の準々決勝。ニュージランドはアイルランドを46-14と大差で破り、イングランドは豪州を40-16とキッチリ叩いた。両チームともに、調子を上げて準決勝を迎える。
 選手たちが試合へ向けてコンディションを整えている間、チームを率いるヘッドコーチたちは、記者会見でのメディア対応に追われる。ここで心理戦の口火を切ったのは、イングランドのエディーだ。ある日、会見の場でメディアに向け、「この中でイングランドがオールブラックスに勝つと思う人は、手を挙げて下さい」と言ってのけた。
 誰も手を挙げなかった。

「その通りです。皆、オールブラックスが勝つと思っています。プレッシャーはニュージランドにかかっています。誰もイングランドが勝つなんて思っていません。我々は、何も失うものはありません」
 闘将は、勝つ気がないような素振りを見せた。

 その日まもなくして、別の会場ではオールブラックスの記者会見が開かれた。ハンセン監督は、いつものようにリラックスしていた。
 エディーが心理戦を仕掛けているのではないか。そんな質問が飛ぶと、さらりと答えた。
「私は心理戦なんかやりませんよ。彼(エディー)がとても賢い人だということは、よく知っています。そんな事をしても、何の意味もありません」
 オールブラックスの指揮官は、エディに白旗をあげたようだった。

 粋な言葉の交換は、スポーツのエンターテインメント性の一部だ。イングランドの練習後に行われた記者会見で、エディーが突然声を荒げた日があった。
「我々の練習を、こっそり撮影している人がいました。スパイに見張られているのでしょうか?」
 その後、自身の過去のスパイ経験をブチまけた。

「私が最後に偵察をやったのは2001年です」
 海外の記者たちは、こういうものに慣れている。こっそり笑った。
「いまの時代、スパイの意味は何もありません。ユーチューブでも、その他のソーシャルメディアでも、練習風景などいつでも公開されてしまいます。この世の中、スパイの意味など何もありませんよ」
 エディー自身も笑っていた。

 それを受けてハンセン監督も言葉を放った。
「お互いに大勝負を戦う。もちろん、両方に同じだけのプレッシャーがかかっています。我々は3連覇のプレッシャーがかかっています。そういえばイングランドは、地元開催だった前回大会では、非常に残念な結果に終わってしまいましたね(前回大会でイングランド代表は、開催国として史上初の予選敗退)。今大会のプレッシャーは、どうなんでしょうか」

 2人の名将は、お互いの電話番号を知っている。いつでも気軽にテキストメッセージを送り合う仲。お互いを尊重し、切磋琢磨する。
 そんな仲のいい友人同士が試合の80分だけ豹変する。
イングランド×ニュージーランド。世紀の対決は10月26日の午後5時、横浜国際総合競技場でキックオフとなる。


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