春の選抜には出場した。
次に金光藤蔭の目指すのは、冬の花園である。
学校があるのは強豪ひしめく大阪。その中でもラグビーの盛んな生野区だ。
共同主将のひとり、CTB上村(うえむら)龍斗は目標を口にする。
「全国大会に出ることですが、その前にまずは決勝戦まで行かないといけません」
じきに初戦を迎える大阪府予選で決勝に残ったことは、まだない。
その限界突破のため、スクラムをひとつの拠り所にする。もうひとりの主将、PR今井無多(むた)は最前列左で体を張る。
「とても強くなっていると思います」
今年、コーチが現れる。
お笑いタレントの「タックルながい。」だ。今井は大きな信頼を寄せる。
「熱い指導です。来られる前、僕たちは組むことに集中して無言でした。でも、今は『イチ、ニイ、サン』と声を出すようになりました。そうすると前に出やすくなりました。雰囲気はどんどんよくなっています」
本名・長位章充は吉本新喜劇の座員として過ごすかたわら、ボランティアでグラウンドにやって来る。フロントローとして報徳学園、法大、本田技研鈴鹿(現Honda HEAT)でプレーした。立派な履歴が残る。
監督の久保玲王奈(れおな)は頭を下げる。
「ありがたいことです」
高校生の練習後、グラウンドをラグビーに興味を持つ子供たちのために開放していた。長位は息子を連れてくる。ご縁が生まれる。
金光藤蔭はFWのチームである。
物理的な理由がある。元々、女子校だったためグラウンドは狭い。人工芝ではあるが、縦24メートル×横40メートル。フルサイズのラグビー場では22メートル陣内の約半分しかない。展開は難しい。どうしてもFW的な練習、タテ突破が中心になる。
ただ、今年はBKにタレントが揃う。
上村とWTBバッソ・ビトロランザはオール大阪(国体の選抜チーム)の35人に入った。
バッソは2歳の時にブラジルから移住。バネのある走りが光る。
さらに、CTB高城(たかぎ)喜一も軸になれる。186センチ、90キロの堂々とした体躯。帰宅後も最低週3回は筋トレを続ける。コンタクト、ランともにレベルが高い。
その才能たちが狭いグラウンドでスキルを磨いた。40メートルいっぱいに広がり、4人から人数を増やしながらパスをつなぐ。精度を上げる。上村は振り返る。
「先生がいない時、パスは30分くらいやりました。スクラムをいっぱい組んできましたが、展開にもこだわってきたつもりです」
この秋、バッソはFL、高城はNO8で公式戦に出る予定だ。BKアタックに慣れた2人がFWに上がることによって、上村がこだわるラグビーに拍車がかかる。高城は表情を崩す。
「ボールタッチが多くなるので面白いです」
部ができたのは1999年。浪花女子が男女共学に移行。前々校名の金光藤蔭になった時だった。社会科教員として赴任してきた久保が同好会として立ち上げた。
創部21年目を迎えたこの春、全国選抜大会に初出場する。西日本に2つ与えられる実行委員会推薦枠に入った。
20回大会では予選Gグループ。リーグ戦3試合で1勝2敗と3位になった。
中部大春日丘には5−38、本郷には5−40だったが、冬の全国大会出場26回の高鍋には29−26。3点差で初白星を挙げた。
5月の府総体(春季大会)ではリーグ戦で、3位の東海大大阪仰星に0−74、6位の大産大附に19−31と連敗した。
99回を迎える全国大会の府予選は第3地区に入った。
初戦となる準々決勝は近大附と対戦する。府総体のCシード決定戦では27−22と5点差で降した相手だ。油断はできない。
試合は11月3日(日)、近大附グラウンドで午前10時にキックオフされる。
準決勝はBシードの関大北陽、初めての決勝に出られれば、Aシードの東海大大阪仰星との再戦が濃厚だ。
決勝は花園第1グラウンドで行われるだけでなく、MBS(毎日放送)の中継がある。
久保は今年度、管理職である教頭補佐に昇進し学校運営にも携わる。放映は関西ローカルで深夜帯にはなるが、地上波でのチームや学校の宣伝・広告は校務にもつながる。
久保がひとりで運営を始めたチームは顧問4人になった。全員、ラグビー経験者である。
久保は神戸国際大、社会科の稲垣陽一は同大、保健・体育の梶村真佑は東海大、化学を教える新任の北村晃一は上宮太子などで楕円球を追った。
経験者の教員たちが主体の指導体制は、教育を身上とする高校ラグビーにおいて、理想の形である。
このカルテットで62人の部員(3年=22、2年=20、1年=20)を導いていく。
上村は笑顔を浮かべる。
「いい監督やコーチに出会えて、感謝しています。スキルも伸ばしてもらえました」
その思いを形にするためにも、藤色のジャージーを花園の緑の芝生に映えさせたい。
この色は校名にも入り、スクールカラーにもなっている。