水間良武(みずま・よしたけ)は20歳以下日本代表(U20)の監督である。
このほど、兼務を決めた。
加わった肩書は「普及育成アドバイザー」。トップリーグ名門の神戸製鋼の一員になる。
「好きで始めたラグビーをもっともっと好きになって楽しんでもらえたらいいな、と思います。その手助けですね」
水間は普段よりさらに目を細める。
生まれ育った関西の地で、ターゲットに据えるのは少年少女だ。
ラグビースクールや高校、大学に向けた技術指導から、戦術や戦略まで、41年の人生で培ったものを若い世代に伝えてゆく。
チームへの指導は従来通り現体制、総監督のウエイン・スミスを筆頭に行われる。
「もちろん、現場から要望があればお手伝いをすることはあるでしょうね」
それでも、現役のU20監督の招へいは、昨年度トップリーグ、今年度カップ戦を制した深紅の盤石さに映る。
神戸製鋼は社会への奉仕活動の一環としてラグビーの普及・発展に力を入れる。企業が文化振興に協力するメセナのスポーツ版だ。その先端に水間がいる。
現場責任者、チームディレクターの福本正幸は説明する。
「底辺の拡大ですね。彼の活動を通して、神戸製鋼という会社を身近に感じてもらえたら。そして、ご縁があればウチのチームに来てもらえたらいいな、と思っています」
すでに好例がある。
神戸製鋼の若手は10月4、11日の2日間、関西学大と合同練習を行った。
FWはスクラムを組み、BKはOBのSH徳田健太、SO清水晶大がパスなどを教えた。
水間をはじめ首脳陣は、朝7時に関西学大のある西宮にやって来た。福本をはじめチームマネージャーの藤高之、採用を担う平田貴博、アシスタントコーチの森田恭平らが顔をそろえる。
フロントロー出身の水間はスクラムにつく。セッションは1時間以上続けられた。
空き時間を利用して、大学生にアドバイスを送る。
主将のPR原口浩明には感謝がある。
「目線の位置を教えてもらえました。相手のLOのつま先を見る。そういうアドバイスは初めてでした。新しい発見でした」
いいポジションを取れて、押せるのに浮いてしまう。それでは前に出られない。その解決策を示した。目を前方下に向けることにより、胸が張られ、低い姿勢は保たれる。
水間自身は今年、結果を残した。
7月にブラジルであったU20の国際大会「ワールドトロフィー」において4連勝で日本を優勝させ、最上のグレードである「チャンピオンシップ」に復帰させた。決勝はポルトガルに35−34と1点差勝利だった。
「未来につなげられて、ホッとしました」
成功体験を持って神戸にやってきた。
その内面には生来のリーダーシップがある。 高大ではともに主将をつとめた。
大阪工大高(現常翔学園)の3年時は全国制覇をする。75回大会(1995年度)の決勝は秋田工に50−10。同校が誇る歴代5位の5回優勝の4回目になった。
同志社大では在籍した4年間、チームは大学選手権に出場。4年時の36回大会(1999年度)は準決勝で優勝する慶大に19−25で敗れた。
3年を過ごしたカネカの廃部に伴い、三洋電機(現パナソニック)に移籍した。選手として7年、コーチとして9年を過ごした。
コーチ時代には4度のトップリーグ制覇を経験する。今年からパナソニックを離れ、U20の監督になった。
これまで特に影響を受けたコーチは4人いる。教育期間中は野上友一、岡仁詩。三洋電機からパナソニックの流れの中ではマイク・クロノ、トニー・ブラウンである。
高校の恩師の野上は今も監督を続ける。
「情熱です」
合同練習では参加チームに秘密を惜しみなく伝える。ラグビーへの熱量に感銘を受ける。
岡は監督などで同大に終生関わった。
「発想です」
試合形式の練習を歩いてさせた。速度を落としミスをなくしてから走らせた。
クロノは今、ニュージーランド代表のスクラムコーチでもある。
「ユーモアですね。話が上手。人を引き付ける魅力がありますね」
日本代表アタックコーチのブラウンには俯瞰することと決断の速度を教わった。
「彼が出たクボタとの試合ではFWがやられていました。『自分と入れ替えてFW選手を投入せよ』と進言しました」
これまで師と仰ぐ4人からその真髄を受け継ぎ、水間は独自のスタイルを創り上げる。
そして、楕円球界のさらなる広がりや強化に関して、神戸製鋼を通して寄与していく。