田村優が泣いていた。2019年10月20日、東京スタジアム。自国開催だったワールドカップの準々決勝に初めて進んだ日本代表SOは、過去優勝2回の南アフリカ代表に3-26で負けると表情を崩す。
「終わった瞬間…うーん、いやぁ、どうすかね。何も思ってな…いや、思ってましたけど…。難しいですね、ちょっと。はい、難しい」
取材エリアに表れると、試合直後の心境についてこう応じる。感極まっていたことについて問われると、山中亮平、田中史朗、松島幸太朗の涙を引き合いに出した。
「ふふ。山ちゃんが泣いてたから。フミも、マツも。このチーム、大好きなんで。はい。負けた(こと)より、終わった(ことへの)悲しさの方がある」
プール戦4連勝で臨んだ一戦。試合序盤に自陣でキックパスを試みるなど、両コーナーの穴を足技でえぐる。混とん状態を作るのがこの日のゲームプランだったようで、前半は相手のシンビンもあって3-5と応戦。しかし背番号10は、その時点で違和感を覚えていた。
「相手がシンビンになって、いろんなプラン、いろんな事ができちゃったんで、逆に(当初の方針が)ぶれてしまったところがありました。本当はもっと蹴りたかったです」
ボディーブローも撃ち込まれた。相手の防御でのプレッシャーは激しく、「僕には、何の関係もなくタックルしてくる選手もたくさんいた」と述懐。ハーフタイムには「しゃべるのもきつい状態」で痛み止めの注射を2、3本、打った。結局、3-8で迎えた後半8分に交代し、1分後には3-11と加点された。
2016年秋に始動したジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ体制の日本代表で、不動の司令塔だった30歳。自身が圧力にさらされた状況を、こんなふうにまとめた。
「予想はしていました。でも彼らはトーナメントで勝つラグビーをやりましたね。はい」
すべてを終えて感じたことには、「5週間、プレッシャーのなかでラグビーを続ける難しさ」もあった。ワールドカップの歴史上、日本代表が1大会で5つ目のゲームをしたことはない。今回も8強入りを当面の目標としており、ミッションクリアの段階で心身のダメージは少なくなかったようだ。
「今週(南アフリカ代表戦前)は、きつかったですね。手を抜くつもりも全くないですし、国民の皆さんの期待にこたえたい気持ちもあります。でも、5試合連続で出ている選手も多くいたので、100パーセントの準備をしたいというのと、身体とメンタルのコンディション(調整)の(バランスを取る)難しさはありました」
8強以上を狙うには、初めから8強以上を目指してチームを作るほかなさそう。大会前から今後について「全くのノープラン」としていた田村は、今回を一区切りとするかのような表現で未来を語った。
「(今回の日本代表が)間違いなく史上最強で最高のチームであるのは間違いないですし、この31人が歴代で一番素晴らしいプレーヤーであるのは間違いないです。ただ、それまで苦しい時代からやってきた先輩方もいますし、僕は(2012年以来)8年間、代表に関わらせてもらって、2015年にあれだけの結果を残しながら(ワールドカップ・イングランド大会で歴史的3勝)ベスト8は入れなかったこともある。しっかり段階を踏んでやってきた。予選突破をしてからの準備の仕方は、次の世代に託します。僕が代表に入った時よりもいい状態で終われたと言ったらおかしいですが…次へのバトン渡しは、完了しました」