ファンやメディアの多くは、36歳のセルジョ・パリッセがイタリア代表“アズーリ”のジャージーを着ることはもうないのではないかと思っている。
国代表の公式戦であるテストマッチでこれまで142キャップを重ね、ニュージーランドのリッチー・マコウ(148キャップ)に次ぐ世界歴代2位のテストキャップホルダーであるパリッセは、キャプテンとして臨んだラグビーワールドカップ2019日本大会を最後にイタリア代表から引退すると見られていて、世界最強軍団オールブラックス(ニュージーランド代表)との試合がアズーリでのラストゲームになるだろうといわれていた。
勝てば、イタリアラグビー史上初のワールドカップ8強入りの可能性があった大勝負。しかし、挑戦することができないまま、大会を去ることになった。
日本に接近している大型台風の影響で、12日に愛知・豊田スタジアムでおこなわれる予定だったニュージーランド対イタリア戦は中止が決定したのだ。この試合は引き分け扱いとなり、2勝1敗1分(総勝ち点12)となったイタリアはプールBの3位が確定し、準々決勝進出はならなかった。
「すばらしいチームと試合をする機会が失われたことはつらい」
試合中止が決まり、パリッセは落胆していた。そして10日におこなわれた記者会見で、悔しさ、怒りを隠さなかった。
「もしニュージーランドが我々との試合で勝ち点4か5を取らなければならない状況だったら、中止にならなかっただろう。こんな決定はおかしい。日本に台風が来るのは珍しくないのだから、(中止ではなく)プランBを用意していないのはおかしい」
大会3連覇を狙う世界ランキング1位のニュージーランドに対し、ワールドカップで一度もベスト8入りしたことがないイタリア(現世界ランク12位)が勝つのは困難だというのが大方の予想だった。事実、イタリアは過去にオールブラックスと15試合戦い、全敗。昨年11月にローマで対戦したときは3-66と完敗だった。
「みんなイタリアとニュージーランドの試合が中止になっても特に問題ないと思っているだろう。どちらにしても僕らが負けるからとね。でも僕らもチームとしてリスペクトしてほしい」
イタリア代表の選手たちは、4万5000人を収容できる豊田スタジアムでオールブラックスにチャレンジするのを楽しみにしていた。史上3人目となる5度目のワールドカップ出場だったパリッセだけでなく、35歳のアレッサンドロ・ザンニと34歳のレオナルド・ギラルディーニにとっても、イタリア代表として最後の試合だったかもしれず、今年3月の前十字靭帯損傷から奇跡的に大舞台に間に合い、もう一度イタリア代表のジャージーを着てプレーしたいと思っていたギラルディーニは、木曜日の練習時に試合中止決定を知らされ、涙を流したという。
パリッセ主将はチームみんなの気持ちを代弁するかのように改めて言った。
「ワールドカップを開催するときは、別のプランを用意しておくべきだ。イタリアとニュージーランドが中止を望むのならいいが、何度も言うようだが、ニュージーランド(の決勝トーナメント進出)に勝ち点が必要だったら中止にはならなかったはずだ」
現在の142キャップから増える機会を逃したことは気にならないかと訊かれたパリッセは、「そんなことは関係ない。キャップ数のためにプレーしているわけではない。大事なのはチームだ」とコメントした。
18歳だった2002年6月8日にオールブラックス戦でイタリア代表デビューを果たし、約18年間、アズーリのプライドを胸に戦ってきたパリッセ。2008年にイタリア選手として初めてIRB(現 ワールドラグビー)の年間最優秀選手賞にノミネートされ、2013年にも同賞の候補に挙がった世界最高のエイトマン(NO8)のひとり。ヨーロッパの伝統国や南半球の強豪相手に挑み続け、テストマッチで100敗を喫した唯一の男でもある。
ワールドカップ後は、新加入するトゥーロン(フランス)でプレーを続ける予定だが、イタリア代表としてのパリッセを見ることはもうないのだろうか。そうだとしたら、これほど悲しい終わりはない。