初戦の豪州戦では、前半を14-12とリードして折り返すも、後半は無得点で27失点。大会前に躍進を予想されたフィジーは21-39で敗れた。
次戦のウルグアイ戦では27-30。今大会初の番狂わせの当事者となるも、世界のラグビーファンに衝撃を与えた試合で敗者側にまわってしまった。
そして迎えた10月3日のジョージア戦。「前節の結果が、今日の試合へのモチベーションとなった」と言うのは、2014年からチームを率いる、ニュージーランド出身のジョン・マッキー監督だ。
この試合では45-10とボーナス点付きの大勝を手にした。
前半は7-3と僅かなリードで折り返すも、後半に6トライ。爆発力を見せつけて試合を決めた。
相手のお家芸とも言われるスクラムでも相手ボールを奪い、ペナルティを誘う場面もあった。チームとしてまとまれば、やはり勢いが出る。ジョージアは止められなかった。
「スクラムについては、この試合に向けて一夜にして強化策が功を奏したという訳ではありません。数年前から継続的に続けてきた強化が、今日は良い結果に結びついたということです。スクラムの強化については、フライング・フィジアンズ(15人制の代表)だけでなく、各年代別チームから長期的なプログラムを継続しています」
長年フィジーの弱点とされていたスクラム。マッキー監督は、それをジョージアと互角以上に戦うまでに向上させた、長期的強化プログラムを称えた。
フライング・フィジアンズのプール戦最後の相手はウエールズだ(10月9日/大分)。豪州、ウルグアイ相手にすでに2敗を喫しているフィジーは、最終戦でボーナスポイント付きの勝利を挙げたとしても予選リーグ突破は難しい。
しかし2勝目(プール内3位以上)は、次回大会出場権自動獲得の条件。次戦の持つ意義は大きい。
ワールドカップでのフィジー×ウエールズといえば、2007年大会のプール最終戦を思い出す。フィジーは、壮絶なシーソーゲームの末に勝った。1987年大会以来となる準々決勝進出を果たした。
「あの試合は子どもの頃にテレビで観ていました。ワールドカップでウエールズを倒すなんて、国ではスーパーヒーロです」
WTBチョスア・トゥイソヴァは、そう話す。
当時まだ13歳だったというトゥイソヴァは、今回、主力として真紅のジャージーと対峙する可能性が高い。2013年から昨シーズンまでフランスTOP14のトゥーロンでプレーしていた(現在はリヨン)。かつてのチームメート、ジョージアのFLマムカ・ゴルゴゼと、試合前にグランド上で挨拶を交わす場面もあった。
トゥイソバに限らずフィジー代表選手の多くは、フランス、イングランド、ニュージーランドなどのティア1国のクラブに所属し、世界トップレベルの選手たちと日々、しのぎを削る。
各選手が世界レベルで揉まれる環境に身を置けることはフィジー代表としても歓迎だ。しかし、複数の国でプレーする選手たちを短期間でひとつに束ねることは簡単ではない。それは、毎大会の課題にもなっている。
しかしトゥイソバは言う。
「私たちフィジー人は、グランド上では独自のコミュニケーションをとることができます」
背番号14の好ランナーは、フィジアン・マジックの下地にあるものとして、「つながり」をキーワードに挙げた。
HOサム・マタベシはイングランド生まれ育ちながらも、フィジアン独特のコミュニケーションに加わっている。
1980年代にフィジアン・バーバリアンズの一員としてイングランドにやってきた父・シレリさんの影響で、子どもの頃から楕円球を追いかけて育った。イングランド2部リーグ、チャンピオンシップ所属のコーニッシュ・パイレーツでプレーしながらも、英国海軍での勤務にも従事してきた(2019年から仏・トゥールーズへ移籍)。
「プロラグビー選手としてのキャリアは決して長くありません。現役選手としての日々が終わった後は、海軍での仕事を職業としていく予定です。海軍の皆さんには、私がラグビーのために割く時間について理解して貰っており、感謝しています。次のウエールズ戦ですが、フィジー人として、フィジー人らしいプレーを見せたいですね。2007年にフィジーを倒した試合は、もちろんテレビで観ていました。いまから試合が楽しみです」
選手招集の困難さや予算不足など、様々な制約を受けるフィジー。しかし過去の多くの大会で存在感を示してきた「本番」に強いチームのひとつであることは間違いない。
ウエールズ相手に、フィジアン・マジックが炸裂することを楽しみにしているファンは多い。