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【ラグリパWest】 ラグビー精神で『ミント!』を摘む。 岡墻正芳 MBS(毎日放送)プロデューサー

2019.10.01

毎日放送の情報・報道番組「ミント!」のプロデューサーを務める岡墻正芳さん。その番組スタジオで笑顔を浮かべる


 関西における人気テレビ番組をそのトップとして作っている。

 岡墻正芳(おかがき・まさよし)は、情報とニュースを扱うMBS(毎日放送)の『ミント!』のプロデューサーである。

 天王寺から神戸と高大で勝負に徹したラグビーをしたテレビマンは47歳だ。
「人の割り振りとお金の管理が主なので、僕自身が取材に行けないのが残念です」
 冗談を交えながら、褐色の顔全体を笑み崩す。丸から線になる目に魅力が漂う。

 関西弁の「見んと」をかけてある『ミント!』は、今年4月1日にスタートした。
 放送日は月~金のウィークデー。時間帯は午後3時49分から7時。3時間超えの番組はMBSにとって看板のひとつでもある。

 この番組は今年10月で20周年を迎える情報番組『ちちんぷいぷい』を短縮する形で世に送り出された。より報道にウエイトを乗せる。同時間帯視聴率トップを誇る番組の改編は社としても新たな挑戦だ。
 現役時代、ロックとして最初に敵陣に切り込んだ岡墻にはふさわしい役回りである。

「関西のライブとライフを伝えたい。今、起こっていることとみなさんの生活ですね。30代、40代、50代にも見ていただきたい。子育て世代にエールを送る番組でもあるのです」
 還暦越えの高年の人たちだけではなく、壮年、その上の世代の取り込みを狙う。

 そのためにワールドカップも取り上げる。10月28日、世界ランク2位のアイルランドと戦った同9位の日本代表を取材した。
 司会者の大吉洋平(おおよし・ようへい)アナに大阪から静岡での練習に飛んでもらう。大吉は英語が堪能なため、海外の記者に話を聞き、他とは一線を画したリポートを作る。

 岡墻は振り返る。
「早朝に出発して、お昼には撤収。午後から放映という強行スケジュールでした」
 試合は19-12で勝利する。大金星によって、取材した価値は上がり、制作者たちの労は報われる。

 楕円球を持った経験は、100人以上が集う制作現場で生かされている。
「人には得意、苦手があります。でもラグビーはその15人みんながポジティブに輝ける。このスポーツをやったおかげで、大所帯でも適材適所を見極めて、人の配置を考えられるようになりました」

 人を大切にするのは社外でも同じだ。
 ブレイク前のラグビー芸人たちと定期的に会食をする。この初夏には、漫才トリオ「なにわスワンキーズ」のこじまラテ(大阪桐蔭→流経大)やしんや(大商大高→帝京大)ら6人と焼き肉をつついた。
「彼らは夢を持っています。どこかでその力になれたらなあ、と思っています」

 岡墻は高校入学とともに競技を始めた。
 天王寺は府内トップの進学を誇る公立校でありながら、その創部は府内最古の1922年(大正11)である。旧制中学時代を含め、冬の全国大会では優勝2回(25回=1943年、30回=1951年)を記録している。

 全国大会出場回数は常翔啓光と並び府内2位の19。トップは37回の常翔学園だ。
 岡墻のひとつ下の代は71回大会(1991年度)の府予選決勝で同志社香里に4-13で敗れた。これは天王寺の最後の決勝進出記録として残る。岡墻は強い時代に育った。

 神戸大でも体育会でラグビーを続けた。
 3年の冬、阪神大震災が起こる。1995年1月17日は、三宮のビジネスホテルで夜勤の受け付けアルバイトをしていた。
「その時、メディアの大切さを痛感しました。現状報告や救助やボランティアの情報がないとみんな何もわかりません」
 四半世紀前、SNSはない。ようやくネットが構築された頃だった。

 MBSには1997年に入局。新人を含め営業に2回、のべ5年間は東京にいた。スポーツ8年、ラジオ8年を経て、テレビに移る。
 思い出深いのは、ディレクターなどで中継に携わった高校ラグビーだ。

「すごいなあ、と思ったのは釜池君と森田君の両センター。アイコンタクトというか、あうんの呼吸で抜いたり、ラインを動かす。あのコンビは飛びぬけていました」

 釜池真道(=かまいけ・しんどう、現NEC)と森田尚希(現近鉄)を擁した啓光学園(現常翔啓光)は84回大会(2004年度)で4連覇。決勝戦では天理を31-14で降した。この連続記録は戦後では最長になる。

「高校ラグビーの涙を見ると、言葉が出なくなります。教えている先生方はお金ではなく、名誉のために活動されている。そういう人たちに触れ合うことができるのは幸せです」
 純粋さは創作意欲のもとになる。

 放送開始から半年を迎えた『ミント!』は視聴率も徐々に上がってきている。
「見るチャンネルってだいたい決まっているんですよね。それが夏休みを過ぎて、変わってきた気がしています」

 長期休暇は子どもたちが家にいる。日頃のルーティーンに変化が起きる。午後6時台に他局が一斉にニュースを報じる中、芸人のたむらけんじらを起用して、バラエティー路線をとった。その差別化が受け入れられ始めた。

 辛抱することにはなれている。ロックとしてスクラムの中心で、フロントーのおしりを押しながら、バックローからは体重をかけられた。ブレイクすれば攻守の軸として、激しく当たり、きついタックルを食らう。

 それでも、最後に試合に勝った時の喜びは忘れられない。『ミント!』も同じ展開になるようにこれからも切り盛りをしていく。