試合前日の東大阪市花園ラグビー場。トンガ代表のラティウメ・フォシタとジェームズ・ファイヴァは、他の仲間よりも先にグラウンドに出て、何度もキックオフの練習をしていた。
どちらもスタンドオフとしての役割が期待されている。司令塔のカート・モラスがラグビーワールドカップのプールC初戦だった9月22日のイングランド戦でのどを負傷し、手術が必要と診断され離脱した。
追加招集されたのがフォシタだった。前回大会も経験している27歳は今年、パシフィック・ネーションズカップでもプレーしていたが、オリジナルのワールドカップ日本大会スコッド31人からは落選。落ち込んだが、緊急事態に備えてトレーニングは続けていたという。
「カートにとっては残念ですが、招集のメッセージを受け取り、本当に興奮しました。ここに来れて嬉しいです。トレーニングをしていたのでプレーする準備はできています」
25歳のファイヴァは、プロ選手になったのはわずか6か月前。その前はガス会社で働いていた。ビッグクラブでのプレー経験はない。昨シーズンはスペインのエルサルバドールに在籍していた。
「グラウンドに出て、思い切りラグビーをするだけです」
28日に花園でおこなわれるアルゼンチン戦で、ファイヴァが背番号10をつけ、フォシタはベンチで待機する。
トンガ、アルゼンチンともに今大会は黒星発進。プールの上位2チームが進めるベスト8入りへ向けてはもう負けられない。
トンガがティア1と呼ばれる強豪国のアルゼンチンと対戦したのは過去に一度しかなく、4年前のワールドカップで初めて激突したときは45-16でアルゼンチンが圧勝した。現在の世界ランキングはアルゼンチンが10位、トンガが15位で、“イカレ・タヒ”の愛称で知られる南太平洋の男たちはチャレンジャーという立場だ。
「ゲームプランについては聞かないでください」
アルゼンチン戦へ向けた記者の質問に対し、何か答えようとしたファイヴァだが、チーム関係者に止められ、ちょっとあわてて苦笑いしながらそう言った。
代わりにグラント・ドーリーFWコーチが、いくつかのポイントを挙げた。
「アルゼンチンはフィジカルが強く、スクラムもドライブもバランスがいい。それにボールを動かすこともでき、オフロードも巧みで、カウンターアタックも脅威だ。でも、我々も対抗する力は持っている。勇気を出して挑む」
世界的なスター選手はいないトンガ代表。それでも、長崎県対馬とほぼ同じ面積の小さな島で生まれ、あるいはルーツを持つ彼らは、人口約10万人の期待を胸に、魂あふれるプレーを見せてくれるはずだ。