ラグビーリパブリック

【コラム】「何かが起きる」のがW杯。

2019.09.26
世界中のラグビー国が最善の準備を尽くし、集う(写真は9月22日・アイルランドースコットランド戦/撮影:髙塩 隆)

世界中のラグビー国が最善の準備を尽くし、集う(写真は9月22日・アイルランドースコットランド戦/撮影:髙塩 隆)

 日本開催のW杯が始まった。スイカで改札を抜け、歩きなれた道を通り、スタジアムへ。ほぼスマホで検索した時間に電車が到着、深夜に家に戻って荷物を降ろす。

 W杯取材がこんなにスムーズにいくなんて、夢のようだ。これまでの経験で「うまくいかないのがW杯」という概念が刻み込まれているからだ。

 海外は言葉の問題だけでなく、様々なところで思いがけぬことが起こる。予期せぬ出来事をどう乗り切るかが勝負。それはオリンピックや他の取材でも同様ではないだろうか。

 4年前のブライトン。日本代表対南アフリカの前日練習は、カメラマンとレンタカーで競技場に行ったのに、試合当日は「混むから」と、メディアバスを選択したのが災いした。

 試合開始4時間前、市内から出る最初のメディアバスに乗ったのだが、これが大渋滞にひっかかり、うんともすんとも動かない。前日は30分弱で行けたルートが2時間以上もかかった。

 ようやくスタジアムに到着すると、カメラマンは機材とレンズをこちらに預け、全速力で駆け出した。大会では毎試合、キックオフ2時間前に「フォトグラファー・ブリーフィング」が開かれ、撮影場所の割り振りがなされる。残念ながらブリーフィングには間に合わず、場所決めはすでに終了、カメラマンは余った場所から選ぶしかなかった。

 万全を期して最初のメディアバスに乗ったのに、いきなり遅刻とは…。日本代表の初戦は、個人的にかなりへこんだ状態で迎えたのだった。

 前回はトゥイッケナムで行われた開幕のイングランド対トンガ戦も試合終了後、ロンドン市内に向かう電車がトラブルで不通に。ナイターだったこともあり、知り合いが何人も大変な目に遭った。

 アクシデントにとどまらず、海外では、日常生活の一つひとつが慣れないことの連続だ。スタジアムに行くルート、駐車場の場所探し。現地の人なら当たり前の知識で、我々旅行者はゼロだから、駅の出口一つで迷う。常に選択しながら前に進むしかないが、時間も疲れも国内にいるときとは大きく異なる。

 選手たちは、その中で最高のパフォーマンスを出さなくてはいけない。もちろんメディアや観客と環境は異なるが、日々の暮らしの些細なことに戸惑うのは同じだろう。

 先日、‘07年大会で監督として南アフリカを優勝させたジェイク・ホワイト氏の言葉に膝を打った。

「W杯は、すべてがうまくいくと思って臨んではいけません。必ず予測しないことが起こる」

 4年に一度、熱気を抱いた人が世界中から何万人も一堂に集うのだ。運営側やチームが万全を期しても、予期せぬことは起きる。

 人間、予定していた事が想定通りに運ばないと焦るもの。W杯は予定通りに物事が運んだらラッキー、と思うくらいでちょうどいい。それが過去の経験から学んだ教訓だ。

 果たして、自国で大会を迎える日本代表はどうなのだろうと思っていたら、ロシア戦前日の会見で、堀江翔太選手がこう言っていた。

「周りの環境が慣れてるので、ご飯とか空き時間も楽ですけど、便利すぎて…。海外に行ったら不便なことが多くて、みんなで集まって“何とかしよう”となる。逆に日本では“みんなでお茶しよう”ということがなくなるので、これからはそういう時間も作っていきたい」

 チームにとっては海外の不便さが、一体感を作ることに役立っていた面もあったのだ。

 翌日のロシア戦、東京スタジアムに向かうチームバスが渋滞に巻き込まれ、到着が遅れた。国内でも「何か」は起きた。堀江選手は、ロシア戦後もこんなコメントを残している。

「初戦はこんな感じかなと思っていた」

 W杯ではベテランの存在が重要と言われる所以である。非日常の舞台には経験しないと分からないことが、たくさんある。それが強い磁力を放って、我々を惹きつけるのかもしれない。

 ちなみに前述の南ア戦。フォトグラファー・ブリーフィングに間に合わず、仕方なく余った場所に席をとったカメラマンは、最後のカーン・ヘスケスのトライの一部始終をカメラに収めることができ、日本雑誌写真記者会賞・最優秀賞を受賞した。

 人間万事塞翁が馬、である。

2015年・南ア戦の逆転トライ。第36回 日本雑誌写真記者会賞 最優秀賞を受賞した(撮影:早浪章弘)


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