ラグビーリパブリック

【コラム】入り口の、その先を。

2019.09.20
千葉のファンが、アイルランド来日に沸く(撮影:BBM)

千葉のファンが、アイルランド来日に沸く(撮影:BBM)

 地元の商店街には、トンプソンが跳び上がってボールをつかむノボリが並んでいる。オールブラックスの屈強の男たちはクールな広告になって新宿駅や表参道の街並みを彩っている。小田急線にはワラビーズ。名古屋で発行された朝日新聞は19日朝刊一面にジョージア代表のウェルカムセレモニーを掲載した。レッドドラゴンに燃える北九州の光景はタイムラインで繰り返し流されている。日曜夜は、我らがジャパンの元キャプテンがドラマの中で主役級の存在感を示してくれた。
 
 僕が生きる世界のあらゆる場所にいま、ラグビーがあふれている。テレビやスマホ、電車で隣り合った人たちの日常会話、初めて歩く町中にも「楕円球」が飛び交っている。今までになかったことだ。W杯(ワールドカップ)はさまざまな人々を巻き込み、とてつもない大きな渦を作るのだなとつくづく実感する。
 
 4年前、新国立競技場の建設計画が白紙撤回となり、W杯で使うことができなくなった。背景には、醜い政治の争いもあった。ワールドラグビーは深刻な懸念を表明し、強豪国から日本開催を反対する声も出始めた。危機を救ったのは、日本代表チームだった。彼らは粘り強く、勇敢に戦った。W杯という舞台で、南アフリカを、サモアを、アメリカを倒した。当時のワールドラグビー会長、バーナード・ラパセは「南ア戦の結果を見て、(ワールドラグビー理事の)全員が日本開催を支持してくれるだろう」と語った。
 
 おかげで、この競技の「入り口」はいま、国内のいたる場所に広がっている。ラグビーに関係するさまざまな人たちが、W杯を盛り上げようと、小さくない障壁を乗り越えて築き上げてくれた、大切な入り口だ。
 
 だからこそ、僕は入り口から飛び込んでくれた人たちのその先を考えたい。どうやったらラグビーが多くの人の生活の一部になるのか。


 先日、スポーツ庁が日本協会に事業委託している「放課後ラグビープログラム」の取材で、日野レッドドルフィンズの練習場を訪れた。
 
せっかく小学校でラグビースクールに入ったり、授業のタグラグビーで楕円球に親しんだりしても、中学の部活動が少なく、競技を続けられる環境が乏しい。そうした問題を解消するため、地域にあるトップリーグや大学のグラウンドを有効活用して、学校などの枠を超えてラグビーに親しんでもらおうという試みだ。2012年に始まり、今年で8年目。今までに1500人以上の中学生が参加した。
 
 日野では40人弱の小中学生が雨の中、トップリーグ選手の指導を受けて楽しそうにボール遊びしていた。緑の芝の上でトップ選手の指導を受け、平日の放課後に学校とは別の場所で思い切り体を動かせることは、子どもたちにとっての貴重でうれしい時間だろう。こうした指導の場が増えれば、選手たちのセカンドキャリアの選択肢も増えるかもしれない。何より地域が、ラグビーというツールでつながっていくことに大きな価値がある。
 
 でも、放課後ラグビーは19年度をもって終了する。W杯日本大会を受けて作られたプログラムだからだ。放課後ラグビーを含むラグビー普及事業の19年度予算は2400万円。もし来年度以降も放課後ラグビーを楽しみに待つ子どもに届けるのなら、どうやってお金を自ら生みだし事業を続けるのか、自走する方法を考えないといけない。自治体に働きかけるのか、スポンサーをつかまえるのか、利用者からお金を集めるのか。
 
 日本協会の担当者に聞くと、そうしたことを考えて、実際に動き出しているという。子どもたちをがっかりさせることのないよう、ぜひ先を見据えて動いてほしい。
 
 東京都が設けた有楽町と調布のファンゾーンでは、競技人口増加を目指して、普及ブースを設置するという。都協会の相談員がラグビーに関する悩み相談にのり、都内のラグビースクールやラグビー部のある中高を紹介してくれるようだ。入り口に入った人をどうにかつなぎとめようという取り組みの一つである。
 
 日本協会の清宮克幸副会長が中心となって練り上げている新リーグ構想も、強化と普及をセットに考えている。トップリーグのクボタなどがすでに設けているような子どもたちのためのアカデミーの創設はリーグ参入条件の一つになるだろう。

 待ちに待ったお祭りの前に、堅い話は無粋なのは承知の上だ。今の街の光景を期間限定の「仮の姿」で終わらせたくはない。入り口の先の、先の、先にあるもの。
 きっとそれは、何十年後かに訪れる2度目のラグビーW杯日本大会なんじゃないだろうか。