ラグビー日本代表の松島幸太朗は、淡々とした口ぶりで内なる「プレッシャー」について語る。
「前回はあまり緊張というものを感じていない部分も多かったので、今回はそれなりに経験もしてきて責任というものを感じるようになってきて、自国開催でもありますし、そういったところでのプレッシャーは前回大会時よりもあるのかなと思います」
9月20日、東京スタジアム。4年に一度あるワールドカップの日本大会が開幕を迎える。26歳の松島は、歴史的3勝を挙げた前回のイングランド大会に続き2大会連続の出場。ロシア代表とのオープニングゲームには右WTBで先発。8強入りをミッションに掲げるチームにあって、淡々とその決意を示す。
「目標であるベスト8以上の結果を出さないと、ファンの皆さんもついてきてくれないと思う。自分たちは結果にこだわることにフォーカスを置いてきました。自信を持ってプレーする。フィールド上でラン、ステップワークで見せていって、それでチームを勢いに乗せていければ」
ジンバブエ人の父を持ち、神奈川・桐蔭学園高卒業後は南アフリカ・シャークスのアカデミーで武者修行。身長178センチ、体重87キロと決して大柄ではないが、空中戦や走りで持ち前のバネを活かす。ぐんぐん駆け上がる。
9月6日のウォームアップマッチでは、強豪の南アフリカ代表に7-41で敗戦。防御時は孤立したところへ鋭く高いキックを蹴られ、どうにか競り合うも分厚いチェイスをかけた相手に球を再獲得された。今度のロシア代表もパワーとキックで主導権を握りたがるとあって、「キック処理は今度の試合は大事になる」と気を引き締める。
むしろ自らの捕球動作を、チームの看板たる混とん状態(アンストラクチャー)からの組織的な攻めにつなげたいと言った。
ロシア代表は他国の出場資格失効に伴い本戦出場が叶ったチームだが、松島に侮るつもりは一切ない。
「相手の10番(SOのユーリ・クシュナレフ)のキックからチャンスメイクをしてくる。その10番をしっかり見て動かないといけない。キック処理をうまくやって、自分たちのカウンターからいい形でアンストラクチャーへ持っていきたいです。いまの状況で簡単に勝てると思っている選手というのは、いないと思います。相手はフィジカルで向かってくると思うので、そこで受け身にならずに自分たちから仕掛けようと話している。甘い考えはないです」
18日に都内であったメンバー発表後の会見へは、所属するサントリーの先輩でもある中村亮土と出席。両者にあてた質問には互いに目配せをしながら、どちらが先に答えるかなどを調節していたような。
重圧のもとで実力を発揮する手段については、中村が「準備は本当にいつも通り。いろんなプレッシャーがあるなかでもいつも通りに準備をするだけ」と紳士的に応じたのち、松島は「控えの選手や出られない選手がロシア代表の分析をしてくれていて、練習ではプレッシャーをかけてきている」と補足する。
「僕たちが試合での相手のプレッシャーでパニックにならないための練習はしてきている。自信を持って、チームでロシア戦に向かっていきます」
会見の終盤。中村がリップサービスも込めてか「当日は松島が3トライ取ると言っている。有言実行してもらいます」と場を和ませる。隣で本人はうっすらと笑みを浮かべた。