「私にとっては、今この作品が試写を迎えていることが奇蹟」
エディの母、ネリー・ジョーンズを演じた工藤夕貴さんが、ギャラリーに訴えた。
2015年ワールドカップで日本が南アを破った試合、「スポーツ史上最大のアップセット」を描いた作品「ブライトン ミラクル(THE BRIGHTON MIRACLE)」のリリースに伴って、プレミアム試写会が9月11日に都内でおこなわれた。
名将エディ・ジョーンズは、いかに苦境を乗り越え、不可能を可能にしたのか。不屈の精神と勇気でボクスに立ち向かう男達に世界が震えた。映画『ブライトン ミラクル』は、作中で叶えられる奇蹟のような物語がみる者を惹きつける。興味深いのは、フィルムの外にも、もう一つの奇蹟があったことだ。
●公式サイト▼https://www.thebrightonmiracle.com/ja/
●先行VOD配信!
9月19日までに下記プラットフォームで順次配信予定。
Amazonプライム、AppleTV(ジャパン)、google
●「THE BRIGHTON MIRACLE」ブライトンミラクル
脚本/監督:マックス・マニックス
製作責任者:アダム・バリーン、マイケル・ホーキンズ
プロデューサー:ニック・ウッド
出演
エディー・ジョーンズ役:テムエラ・モリソン、リーチ・マイケル役:ラザラス・ラトゥーリー、ネリー・ジョーンズ役:工藤 夕貴、リーチ知美役:すみれ
制作会社:SYN株式会社・EASTPOOLフィルムズ・将軍プロダクション
工藤夕貴さんが奇蹟だというのは、この映画が公開にたどり着いたプロセスについてだ。当初は2019年1月に撮影がスタートするはずだったが、実際にカメラが回ったのは5月。というのもこの映画、諸事情からいったん、すべてがご破算になったのだそうだ。資金面からキャストまでが空中分解。しかし、関係者や支援者の尽力でなんとかお蔵入りを免れた。
工藤さんが、最悪の時期を振り返る。
「誰もが、この企画は終わったと思った。でも、私はなんとかこの脚本を形にしたいと考えていたし、マックス・マニックス監督の目の奥に『あきらめないぞ』という光があったのを見逃さなかった」
一人、またひとりとプロジェクトから人が離れていく中、工藤さんは監督を励まし続けたという。「私は絶対に去らない。この映画のそばにずっといる」
上映後の舞台挨拶に登壇したマニックス監督は涙を浮かべて、横に並んだ役者たち、そしてプロデューサー兼音楽監督のニック・ウッドさんに感謝を述べた。ラグビー日本代表のコーチ(スポットのディフェンススキルコーチ)経験もあるマニックス監督があえて言う。
「単なるラグビーの話にはしたくなかった。人間が大きな試練を乗り越える挑戦の物語。周りの人が『ダメだ、そんなこと叶うはずがない』と言う中でも、日々の努力をやめないこと。自分であり続けること。その大切さを伝えたかった」
不屈の信念を謳うこの作品が奇しくも見舞われた試練が、どれほど深刻であったか。現在も配給(劇場での公開)が決まっていないことからも、彼らが這い上がってきた淵の深さは伺える。この映画は「ワールドカップが始まる中、親しい人と気軽に見てほしい」(プロデューサーのウッド氏)とネットで配信されているが、ぜひ、劇場で観てほしい作品だ。
居間でなく、劇場で。
9月11日の試写会場には、英語圏の記者、関係者と日本人とが隣合って座っていたが、場内の照明が落ちてからの場面、場面対する反応は、時に大きく違った。隣の人が笑うと、自分たちがわらわれている感覚になることがある。きっとその逆もあった。もちろん、みんなで笑ったり、哀楽を共有できたりするシーンも。ラグビーを含むさまざまな文化の違いの中で、人は差別感やコンプレックスを互いに持つことを、スクリーンの前で実感させられた。それはリビングで家族と観る「ブライトン ミラクル」では味わえない、この作品の醍醐味だと思う。
多様性と寛容さ。ラグビーと日本がいつも直面するテーマが頭を巡った。これが日本に14年間も住んだことのあるラグビーマン、マニックス監督が仕掛けたトリガーだとしたら、漏らさず味わいたい。
作品の外のもう一つのチームは、今も奔走しているのではないか。工藤さんの言う奇蹟はまだ完結していない。『ブライトン ミラクル』は劇場で体験したい映画だ。