ラグビーリパブリック

スクラムは「塩梅」が大事。日本代表の突破役は日本語上達のヘル ウヴェ。

2019.09.03

日本代表13キャップのヘル ウヴェ。ワールドカップ初参加となる(撮影:向 風見也)

 塩梅。もしくは按配。料理の味かげんやものごとの具合を表す日本語で、日本生まれ日本育ちの市民にとってもとりわけポピュラーな言葉ではなさそうだ。

 しかし、トンガ出身で2016年に日本国籍を取ったヘル ウヴェは、明確な意志で「そこは、塩梅ですね」と言った。報道陣からスクラムで相手に圧をかけるタイミングなどについて聞かれた際、こう応じたのだ。

「8人の力(のまとまり)が欲しい。ヒットのタイミングがばらばらにならないように、一緒にさせたい」

 話をしたのは8月21日。ラグビー日本代表の一員として、北海道・網走でのキャンプに参加していた時だ。この時は、ワールドカップ日本大会の登録メンバーを決める最後のサバイバルレースの只中。ヘルは実戦練習で控え組に入ることも多く、気を引き締めていた。

「(網走合宿は)ラストプッシュ。この合宿では、足りない部分をもっとレベルアップする。オフ・ザ・ボールの仕事。あとは、チームのシステムのなかで動けるようになりたい」

 身長193センチ、体重113キロの29歳。幼少期に母国でラグビーを始め、ニュージーランド・カンタベリー地方のセントトーマス高を経て2010年に拓大入り。パワフルなランナーとして活躍し、2012、13年シーズンは関東大学リーグ戦1部のベストフィフティーンに輝いた。最終学年時には、拓大史上初の外国人主将を任された。

 さらに才能を開花させたのは、2014年にヤマハへ加わってからだ。自身が務めていたFW第3列の同僚には、元ニュージーランド代表のモセ・トゥイアリイがいた。ヘルはトゥイアリイから、ジャッカル(相手の接点で球に絡むプレー)の極意を学習。強く、しぶとい選手へとモデルチェンジを果たしたのだ。

 国籍変更後は国内トップリーグにおいて外国人枠外でプレー可能となり、アピールチャンスを広げた。2016年秋、ジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチ率いる日本代表に初めて選ばれた。

 ナショナルチームでは、層の薄さが指摘されたLOで出番を得た。国際リーグのスーパーラグビーに日本から加わるサンウルブズでも出場機会を増やし、豪快な突破を南半球の猛者相手にも繰り出した。活躍した。

 今度の網走合宿ではスタミナアップに注力。そして8月29日、4名いる日本代表LOに名を連ねたのだった。

 キャンプ中の取材機会で「塩梅」という言葉が出た時は、その場に立ち会った記者が皆、驚いていた。もっとも当の本人は、「僕、もっと日本語がうまくなりたい」。組織内で定められた3人1組のスモールグループは、稲垣啓太、松田力也と組んでいた。

 効果的な押し込み、防御、突進、グラウンド内外で「塩梅」を見る意識。ヘルが期待されることは少なくない。

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