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ラグビーワールドカップに挑む日本代表 全31人選手名鑑 その3 【SH・SO・CTB編】

2019.08.29

田中 史朗 (SH)
「日本を背負う小さな巨人」

生年月日:1985年1月3日生まれ 
年齢:34歳
出身地:京都府出身
身長/体重:166㎝/72㎏
現所属クラブ:キヤノンイーグルス

 小さな巨人。ありきたりな表現がこれほど似合うラグビー選手もいないだろう。2011年のワールドカップで日本代表を率いたジョン・カーワン ヘッドコーチ(HC)は、この赤白の9番を「ベイビー・アサシン(暗殺者)」と呼んだ。子どものような風貌で、相手の急所を鋭く撃ち抜く。
 166cm、72kgとサイズはコンパクトだが、ピッチ上での存在感は特大だ。プレッシャーがかかる状況でも瞬時に敵味方の陣形を見極め、時にはスピーディーに、時にはテンポを落ち着かせながら、相手防御の弱いエリアへ的確にボールを配する。幅広いビジョンと経験に裏打ちされた巧みな球さばきは、もはや名人芸に近い。
 そんな際立つパフォーマンスを支えているのが、群を抜く負けん気の強さ。全身から活力を発散させて仲間を鼓舞するなど、メンタル面の火付け役としてもジャパンで重要な役割を果たしてきた。一方で現在は、「前はずっと僕が文句を言っていると言われていたけれど、今はその必要もない」と、チームの成長を口にする。
 堀江翔太と同様、2011年のワールドカップで結果を残せなかった責任感から、海外挑戦を決意。2013年、現日本代表のジェイミー・ジョセフHCが指揮を執っていたニュージーランドのハイランダーズで日本人スーパーラグビー選手の第1号となり、2015年シーズンには優勝の美酒も味わった。さらに同年のワールドカップでは、世界最高峰のクラブリーグでもまれ培った実力をいかんなく発揮し、主力としてジャパンの快進撃に貢献。南アフリカ戦ではマン・オブザマッチに選ばれるなど、文句なしの活躍を見せた。
 2008年の初テスト以来積み重ねてきたキャップ69は歴代5位の数字で、現在のジャパンでは最多。極限の重圧がかかるワールドカップにおいて、豊富な国際経験は何よりの武器だ。ジョセフHC、トニー・ブラウン アタックコーチとはハイランダーズでもコーチと選手としてともに戦っており、人柄や指導法を熟知している点も心強い。
 日本を背負って戦うことを誰よりも意識し、先頭に立って新たな地平を切り開いてきた。ストレートな感情表現や歯に衣着せぬ発言も、この国のラグビーの発展を願う気持ちの強さゆえ。だからこそ多くのファンから愛され、絶大な支持を受ける。
 失望と歓喜、その両方をワールドカップで味わってきた34歳のベテランにとって、今秋の日本大会は集大成の大舞台となる。

流 大 (SH)
「燃え尽きない向上心の塊」

生年月日:1992年9月4日生まれ 
年齢:26歳
出身地:福岡県出身
身長/体重:166㎝/71㎏
現所属クラブ:サントリーサンゴリアス

 向上心の塊。流大を知る人は皆、そう口をそろえる。うまくなりたいと誰よりも強く思う気持ちが、周囲に好影響を与える。帝京大、サントリーと、主将を務めたチームが頂点に立てた理由が、そこにある。
 SHとしての長所は、速いテンポの球さばきと精度の高いボックスキック。近年はスーパーラグビーや日本代表でハイプレッシャーのゲーム経験を重ね、緩急を利かせたプレーメークにも磨きがかかった。ポイント後方のスペースへ味方チェイサーを走らせるピンポイントのパントは一級品だ。
 昨季はリーダーとしての様々な重圧に苦しんだが、それも成長の糧。ひと回りたくましくなった姿を、ここから見せてくれるはずだ。

茂野 海人 (SH)
「トライ賞にノミネートされた攻撃型SH」

生年月日:1990年11月21日生まれ
年齢:28歳
出身地:大阪府出身
身長/体重:170㎝/75㎏
現所属クラブ:トヨタ自動車ヴェルブリッツ

 大東大時代からアグレッシブなプレーで名をはせてきた攻撃型SH。2015年にNZに留学し、オークランド代表に選出され国内選手権決勝の舞台に立ったことをきっかけに飛躍を遂げた。2016年にはサンウルブズ、日本代表入りも果たし、同年6月25日のスコットランド戦で挙げたトライは、ワールドラグビーの年間最高トライ賞にもノミネートされた。
 サンウルブズには初年度の2016年から参加し、スピーディーな球さばきなど持ち味をいかんなく発揮。今季も日本人選手でただひとり先発した開幕戦を始め、8試合に出場した。自ら持って走れる能力は、田中史朗や流大にはない強み。虎視眈々と9番の座をうかがう。

田村 優 (SO)
「日本の命運を握る戦術遂行の潤滑油」

生年月日:1989年1月9日生まれ 
年齢:30歳
出身地:愛知県出身
身長/体重:181㎝/92㎏
現所属クラブ:キヤノンイーグルス

 日本代表の命運を握る男。そういっても過言ではないだろう。世界有数の頭脳と評されるトニー・ブラウンアタックコーチの練り上げた緻密なシステムをピッチ上で具現化する戦術遂行のキーマンにして、テストマッチでは何より重要なプレースキッカーの大役も担う。この10番の活躍なくして、ジャパンの躍進はない。
 チームメイトの誰もが認めるように、スキルの高さは国内随一だ。昨季のトップリーグでは、187回のキャッチング機会でエラーはわずか2回だけ。敵味方の陣形を見極める視野、早いテンポで的確にプレーを選択する状況判断力も出色で、ブラウンコーチは「調子がいい時は世界でもトップ3のSO」と太鼓判を押す。
 以前は試合によってパフォーマンスの波が大きいことが指摘されていたが、テストマッチやスーパーラグビーの経験を重ねたことで、その課題は大幅に改善されてきた。ゲームの流れの中で問題点を見つけ、解決する修正力も向上。チームの中枢で堂々とゲームコントロールする姿には、プレーメーカーとしての風格が漂う。
 昨秋のテストシリーズではオールブラックスのリッチー・モウンガ、イングランドのジョージ・フォードと渡り合い、ロシア戦では後半20分からの出場で悪い流れを一変させて逆転勝利に導いた。田村が入ると周囲が滑らかに連動するのは、チームの信頼と成熟の証。桜の司令塔は、最高の状態で2度目のワールドカップを迎える。

松田 力也 (SO/CTB)
「聡明にして華のある背番号10」

生年月日:1994年5月3日生まれ 
年齢:25歳
出身地:京都府出身
身長/体重:181㎝/92㎏
現所属クラブ:パナソニック ワイルドナイツ

 高校時代から常に同世代の顔としてトップレベルでキャリアを重ねてきた。高校2年時に高校日本代表、同3年でU20日本代表といずれも飛び級で選出され、帝京大では1年時から10番を背負って学生ラグビーの頂点に君臨。パナソニックでも1年目からCTBで先発の座をつかみ、ベストフィフティーンに選出されている。
 パス、ラン、キック、深いゲーム理解に状況判断力とあらゆる能力を備え、SO、CTB、FBをこなす万能性が魅力。国際級の戦いを経験するに連れ安定感が高まり、試合運びにも貫禄がにじむようになった。中学、高校の先輩である平尾誠二氏を彷彿させる聡明にして華のあるプレースタイルで、ジャパンを勝利に導くことが期待される。

中村 亮土 (CTB)
「ミッドフィールドを支配する弾丸CTB」

生年月日:1991年6月3日生まれ  
年齢:28歳
出身地:鹿児島県出身
身長/体重:178㎝/92㎏
現所属クラブ:サントリーサンゴリアス

見事に隆起した太ももとふくらはぎが生み出す推進力が自慢の弾丸CTB。昨秋のイングランド戦では、重心の低いランで鮮やかにトイ面を抜き去る印象的なトライを決めてみせた。海外の大型選手とも渡り合える頑健なフィジカルを誇り、今や代表12番争いの本命と目される。
 サンウルブズ初加入となった昨季のスーパーラグビーでは、外国人選手が大半を占めるBKラインにおいて際立つ存在感を示した。自分の良さを発揮しながら周囲の強みも引き出せるのは、読みの鋭さと高いコミュニケーション能力の賜物だ。相手の懐に突き刺さって仰向けに倒すビッグタックルも大きな武器。攻守の起点となってミッドフィールドを支配したい。

ラファエレ ティモシー (CTB)
「スキルを兼ね備えた次世代BK」

生年月日:1991年8月19日生まれ
年齢:27歳
出身地:サモア出身(日本国籍)
身長/体重:186㎝/98㎏
現所属クラブ:神戸製鋼コベルコスティーラーズ

 NZのデラセラカレッジから山梨学院大に入学し、4年時は同期の後藤輝也(現NEC)らとともに1部昇格の原動力となった。その後コカ・コーラでコツコツと努力を重ね、2016年秋にジャパンに初選出。以来、優れたスキルセットとコンタクトの強さでスタメンに定着し、昨秋のロシア戦までアジアラグビーチャンピオンシップを除くテストマッチ16戦で13試合に先発するなど、BKの中軸に成長した。
 その後、痛めていた肩を手術したが、6月1日のサンウルブズ対ブランビーズ戦で実戦復帰。元気な姿を見せ、代表首脳陣を安心させた。母国サモアとも対戦するワールドカップを100%の状態で迎えるために、着実にステップを重ねている。

ウィリアム・トゥポウ (CTB/FB)
「幅広いエリアをカバーするパワーランナー」

生年月日:1990年7月20日生まれ
年齢:28歳
出身地:ニュージーランド出身
身長/体重:188㎝/101㎏
現所属クラブ:コカ・コーラレッドスパークス

ラグビーリーグ出身で13人制トンガ代表の経歴を持つパワーランナー。アタックでは力強さとしなやかさを兼ね備えたランで相手防御をこじ開け、ディフェンスではタックルレンジの広さを生かして幅広いエリアをカバーする。左足のキックも精度が高く、サンウルブズでキッカーを務め、鮮やかなゴールを連発したことも。
 昨秋の欧州遠征ではFBに回ってハイボール処理で大きな存在感を示し、新境地を開いた。懸念事項だったキック対策に目処が立つとともに、松島をWTBやCTBに回すオプションが増えたことは、ジャパンにとって小さくないプラス材料だろう。どのポジションで出場するにしても、重要な役割を担う存在となりそうだ。