ラグビーリパブリック

【コラム】ラグビー愛の伝え方

2019.08.15
ラグビールール解説の動画でお馴染みのKISHIBOY

ラグビールール解説の動画でお馴染みのKISHIBOY

開幕まであと5週間! ラグビー伝統国以外で初めてのワールドカップが始まる。日本で初、アジアで初、時代の変わり目の大会が幕を開けようとしている。

「チケットって、取ってもらえたりしない?」と聞かれることが増え、しかしそのようなパワーはまったくなく不甲斐ないのだが、とにかく、ラグビーの話題を相手の方からされる機会が格段に増えた。

 楕円球話といえば、これまでは専ら、こちらからするものだった。
 
 ラグビーの存在を伝えたいのであって、俺は、僕が、で語るべきことはあまりない。それでも、聞き上手な人がいる場合は調子に乗ってベラベラいってしまい、後悔する。

「あ、いまみんな引いたな」。あの勇み足を何度繰り返すのか。

いよいよワールドカップが日本で始まる。今回もどんなことが起きるかは誰にもわからない。たとえ起きなくても、やはり自国開催は臨場感が違う。一般社会で稀少種らしい楕円系の僕らには、これから先、ラグビーについて話す機会がより多く訪れるはずだ。せっかく、少しでも関心を持ってくれた人にどんな話し方をしよう。

 そう思っていたら、同じようなことを考え続けて、「伝え方」を一つの形にした人がいたので紹介したい。

 ヤマモトさんは書籍を作る仕事をしているきりっとした女性だ。大学の時、唐突にラグビーを始め、週1ペースで楕円球に触れる生活をしていた。

 ワールドカップイヤーになり、突然、観戦初心者のためのラグビー本を作ることになり、戸惑いながらも奮闘。ラグビーをどう伝えるか悩み、さまざまな楕円関係者のサポートを得て、晴れて7月、刊行に至った。

 以下はそのその原動力となった信頼と愛を、あますところなくテキスト化したものである。 



––読者をラグビー観戦の世界へナビゲートする「KISHIBOY」(キャラクターデザイン:荒川潤一)は、ルール動画でお馴染みですね。コンセプトづくりから完成まで、特に苦労し
たことはありますか?

 一応ラグビー経験者で、ラグビーファンでもあるので、その魅力について伝えたいことがありすぎて。本の中に入れたい、説明したいことが多すぎる。もし私だけで作っていたら、初心者にはわかりにくいルール本になっていたと思います。

「ラグビーってこんなにすごいよ」ということをつい伝えたくなってしまうんですよね。そのまま行ったら、きっと「押しつけがましいなあ」と思われる本になっていたかもしれません。

––チームだから、できたことがあるのですね。

 この本が今の形になったのは、著者でKISHIBOYのラグビールール動画の生みの親の中野良一さんと木谷友亮さんが、要素を大胆にそぎ落として、「わかったつもりになってもらう」ことにフォーカスしてくれたからです。

「わからせよう」などという上から目線な部分は一切なく、「すぐにわかる」「わかったらおもしろくなる」ことだけを選んで入れました。

 そして、「ラグビーってこんなにすごいんだよ」的な部分も極力入れないようにして、内容を練りに練っていきました。

 2月後半から4月末まで、ほぼ1週間に1回の打ち合わせと、ラグビー経験者、選手、レフリーなどへの取材を続けて、その中でどんどん内容がブラッシュアップされていったと思います。

 こうして、クリエイターの決断力・抽出力による、まさに「ざっくり」としたラグビー紹介本ができあがりました。

––この本に関わって、「ああラグビーってこういうところがめんどくさいな笑」、「でもこういうところがいいな!」と改めて感じたことはありますか?

 30年以上にわたってラグビー観戦してて、選手として経験しても、ああ、やっぱり、オフサイドってわからない!(笑)。ましてそれを初心者に説明するのもとっても難しい。

 ラグビーのルールって難しいというけど、「わからなくても観戦楽しめるルールや反則は、とりあえずおいといて、楽しむこと重視」でいいんだな、って、この本作って思えました。そういう視点の情報が増えたら、初心者も入りやすくなるのかなあと思います。

 それと、ラグビーファンって、私も含めて、ラグビー愛が強すぎて、ファンじゃない人から見るとちょっとうざいのではないか、めんどくさいのではないか…ということも。熱く語り過ぎられると、逆にひいちゃうこともあるのかなあと。

 そんなことも、本を作りながら気づいたことで、この本にはそういう「愛のおしつけ」部分がないのも魅力だと思います。

そして、本を作ってあらためて思ったのは、ラグビー経験者やファンはみんなやさしい!ということです。

どこにこの本を持って行っても、みんな親身になって話を聞いてくれて、きっとみなさんそれぞれ独自のルールの説明法とか、ラグビー論的なものをお持ちだと思うのに、温かい目でこの「ざっくりした」本を見てくれたことが、うれしかったです。

          ◎

 ヤマモトさんありがとう。なるほど、ラグビー関係者はラグビーが好きすぎる。愛情が強過ぎて「もっとこうあるべきだ」「みんなも、こうするべきだ」といったメッセージが期せずして伝わってしまうと、少々うっとうしさを発散するのだろう。

 さて、ラグビーに触れたことがない人に、どうラグビーを伝えるか。

 いろいろわかってほしいことはあるけれど、まずは割り切って「ざっくり」とラグビーを受け止めてもらうのもいいのかもしれない。そのうち自然に、それぞれが各々の面白さや「ここがすごい」を見つけてくれたら、最高だ。何年か経ったら今度は、自分の知らない魅力を、その人に教わったりして。

YouTubeで評判!
ラグビールール動画でおなじみの
kishiboyが本になりました。

「ラグビーのルール超・初級編」
著者:中野良一・木谷友亮
キャラクターデザイン:荒川潤一
7月より発売中!
版元:ハーパーコリンズ・ジャパン

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