「最後の場面、チャンスをものにできず悔しい」
試合後の東芝SH小川高廣の目には光るものがあった。ファンとのグリーティングタイムにはきっと笑顔で臨んだ誠実なキャプテン。その後の記者会見では、また悔しさがこみ上げ言葉に詰まる場面も。
8月4日、熱帯夜のトップリーグカップ戦樹決勝、三ツ沢ニッパツでは、クボタが東芝を31−24で破って決勝進出を決めた。点差は7点。終了間際は、クボタ13人、東芝15人の絶好のチャンス。トライとゴールを奪えばトライ数差で上回る東芝が、ゴール前に張り付いて猛攻を仕掛けていた。守るクボタはそのプレッシャーに堪らず反則を連発、シンビンを2人出していた。
東芝はゴール前5メートルのペナルティでスクラムを選択、プレッシャーをかけたが、トライは奪えず7点差のままノーサイドに。2人多い状況、しかも、クボタのシンビンは2人ともFWという好機を生かせなかった。
ただ、東芝の瀬川智広監督は、選手たちがくだした判断を尊重した。
「FWでいくという判断だったと思う。結果的に、相手が2人少ないスペースを突くことはできなかったが、状況の中で選手が決めてやったこと。次につながる」
東芝は、トップリーグで5度頂点に輝いている名門だが、2009年を最後に覇権から遠ざかっている。このカップ戦は、「一人ひとりが自信を取り戻すことが、一番の目標だった」と小川主将。
優勝という結果には届かなかったが、足掛かりはできたと感じている。
「これまでは、試合に対するマインドが『負けたらどうしよう』ーーとネガティブだった。今年は『もっと試合がしたい』という気持ちが戻ってきている。僕は、今いる人で優勝ができると思っています。その力はある」
勝利を重ねるごとに、欲しかった自信が少しずつチームについてきた。以前と変わったのは、選手自身が感じ、考えること。
「うちは今、本当にコーチ陣と選手が良いコミュニケーションが取れている。週2くらいでご飯を食べながら話したり。以前からリーダー陣がコーチ陣と選手をつなぐのは変わらないのですが、ただ伝達するのではなく、自分たちの考えを伝えるというプロセスもできた。話して、だから理解をして取り組めていると思います」(小川主将)
ゲームごとの戦術にも、選手たち自身が考えたものが反映されるようになった。
瀬川監督曰く、前半開始早々の2トライでは、選手たちがクボタに対策して練ったアタックが見事に当たった。
小川はチームを率いながら、「カップ戦優勝」の題目が、少しずつ実感を伴っていく変化を経験した。
「みんなが、優勝と口にするときにリアリティが出てきた。予選プールの組み合わせ、ヤマハ、NTTコムと、近年勝てていない相手だったんですよね。それだけに、勝てたら乗っていけると思って、初戦のコムにすべてを出し切るつもりで準備しました。
そこで勝って(31-24)、少しずつ良くなってきた」
瀬川監督はあくまで慎重だ。
「今回クボタに、最後の最後で勝ちきれなかったことは大きな課題として残ります。自信というものは、そんなに簡単に身につくものではないと思う。選手たちがコツコツと積み上げてきたものが、やっと今、少し形になってきたところ」
チーム全体でチャレンジできたカップ戦は、東芝の一人ひとりに多くを残した。1月のリーグ戦に向けては、新ヘッドコーチのトッド・ブラッカダーが指揮を執る。このカップ戦準決勝も会場で見守った元NZ代表主将のカリスマが、どんなリードを見せるのか。選手たちの心には再び火が灯った。東芝の冬へのプロセスが、今からが楽しみだ。