ラグビーリパブリック

【コラム】ブームに思う。私は、いっそ気持ちよく調子に乗るね。

2019.08.01

「楕円球LOVE!」立ち上げ会見で。女優の内田理央さんと俳優・滝藤賢一さん(撮影:BBM)

 仲間を増やす上で、ラグビーの「中の人」の行動が今、とても大事だと思う。
 
 お世話になっているラグビースクールのマツシタさんが子供たちに向かって言っていた。

 今日初めて練習に来てくれた子を見つけたら、絶対に一人にしておかないこと。

 今日初めて来てくれた子同士が、すみっこで二人だけで話していたら、その間に入ってでも話しかけること。

 人を歓迎するのに、相手の名前を覚えるのなんて当たり前だ。こちらの名前を覚えてもらえるくらいにおもてなしをしよう。

 この姿勢で人が惹きつけられないはずがない。ストレンジャーをみるみる巻き込んで、同じジャージーを着る仲間を増やしていった。かつて30人ほどだったスクールは200を超える規模になった。中学生の部には女子も多い。1年生約30人のうち7人は女の子だ。

 さて、ワールドカップ日本大会まであと50日。

 巷では本格的なラグビーのドラマが話題になり、多くのラグビー関係の出版物が刷られ、ネットにも楕円球の情報が溢れている。

 2015年の前回ワールドカップ時と今とが違うのは、各メディアの準備の度合いだ。前回は突発的なニュースに対するリアクションだったが、今回は、メディアがあちこちで、自らアクションを起こしている。

 とりわけWEBマガジン「楕円球LOVE!」には作り手の情熱を感じる。

「欅坂46がラガーシャツに着替えたら」を筆頭に、瀧藤賢一のショートムービー「Rの男」、「100人のラガーシャツ」などなど、多彩な企画ラインアップ。楕円球LOVE![にわかファン限定 ラグビー応援WEB MAGAZINE]は、訪ねるとずっと居続けてしまうコンテンツでいっぱいだ。

 それもそのはず、編集長は集英社で「メンズノンノ(MEN’S NON-NO)」や「ウオモ(UOMO)」などの編集長を歴任した日高麻子氏(取締役でもある!)だ。

 6月14日の大会100日前に創刊、約100人のメディアを集めてお披露目イベントも開かれた。

 かつてJリーグやBリーグ選手を(ファッション誌の!)表紙に起用したこともある日高さんは、楕円球LOVE!の目指すところをこう話した。

「日本中のにわかラグビーファンたちがワールドカップの開幕を待ちわびるようになってほしい。『ラグビーがあるから、今日は会社休もう』『早く帰ってラグビー観よう』と言えるくらいのことになれば」

 そして印象的だったのは、ファッション誌づくりのプロが示した成功の指標である。

「世の中に流通するラグビージャージーの絶対量を増やしたい」

 スポーツとファッションは、若者にとって親和性のきわめて高いジャンルであるはずーーと日高さん。ラグビージャージーは、このサイト内のあちこちで語られているように、興味深く可能性のあるアイテムなのだそうだ。

 このワールドカップを機に、街なかでもっと頻繁にラグビージャージーを目にするようになったらいい。それが日高さんのゴールのイメージの一つだ。

 リアクションではなく、アクションとして多くのメディアがラグビーに関わる今、それは多くのクリエイターが、ラグビーにまつわる仕事をしている特別な期間だ。

 ラグビーの中の人が、そこへどう関わるかはとても大切だ。大会後も彼らがさらにラグビーに関わり続けてくれるかどうか、僕らの所作や態度にかかっている。そこで今までになかった視点ややり方に接して、違いに刺激しあっていけたら、ラグビーはもっとリッチなスポーツになる。

 お前誰だよ。

 素人が何いってんだよ。

 新しく輪に加わろうとする人がいるとき、輪の中の人はそんな風に内側を向いて広いスペースに背を向けることもできる。むしろそうしがちだ。受け入れることにも勇気がいるからだ。ラグビー界の人には、自分が新入生だった頃を思い出してほしい。やるって決めた、でもちょっと入っていきずらいな。

 そんな時、輪の中からかけもらった言葉にどれだけほっとしたか。その中で役割をやっと見つけられた時、どれだけうれしかったか。ラグビーで大きくしてもらった今、勇気なら売るほどあるのではないか。

 個人的には、今回のブームにはむしろ気持ちよく乗ってしまえと、思うようになった。そこにたくさんの能動的な人がいて、それぞれのやり方、チャンネルでラグビーとつながりを持ってくれているからだ。

 いまは調子に乗って、相手の名前を覚えて、自分の名前を覚えてもらえるくらいに良い時間が過ごしてもらう。そうしたら、きっと仲間はどんどん増えていく。

 多くの人と出会い、一緒に何かを作れる時間が、大会が始まっても終わっても続いていくように。少なくともこちらは、その覚悟でいます。