長野の菅平高原は、全てのカテゴリーのラグビー選手にとって定番の合宿地だ。ところが青森山田高のラグビー部は、今年の7月に初めて同地へ訪れたという。本格的な強化を始めて日が浅いからだ。
初めての菅平でおこなったのは、何と全国大会への参加だった。
7月20日からの3日間、7人制の高校日本一を争うアシックスカップに初出場する。初日の予選プールを1位通過し、上位16チームによるカップトーナメントに進んだ。最後は11位に終わったが、会場のサニアパーク菅平に鮮烈な印象を残した。
大会中、斉藤芳ヘッドコーチ(HC)は目を細めた。
「テレビで観たことのあるチームとできて、『〇〇を抜いた』とか『××に勝った』と刺激を受けて楽しんでいます。菅平に来るのも初めてなので」
サッカー、野球、卓球などで有名な青森山田高にあって、ラグビー部も新風を巻き起こしつつある。今年は春の県総体で優勝。その勢いでつかんだのが、このアシックスカップへの挑戦権だった。母国のトンガサイドスクール、トンガカレッジを経て来日2年目のリサラ・フィナウも、日本語で「楽しんでいます」と笑う。
ちなみに身長188センチ、体重116キロのリサラが日本でプレーするのは、「家族のため」。6人きょうだいの3番目で、兄と姉が1人ずつ、妹が3人いるという。
「もっとラグビーを頑張ります。日本代表になります」
チーム作りにあたり、斉藤HCは宗像サニックスをイメージする。確かに、国際色豊かな面子が自在に球を動かすサニックスのスタイルは、留学生を擁する新興クラブにマッチするような。日本人選手も躊躇なくオフロードパスをつなぐ。「せっかくトンガ人が来た影響もある。いい文化を採り入れている」とは斉藤HC。こうも続ける。
「後ろに下がりながらでもつないでなんとかし、前に出られる選択肢を自分たちで作る」
アシックスカップに際し、斉藤HCは「セブンズはセブンズらしく」。選手同士で7人制の試合映像を観て、したいプレー、すべきプレーについて話し合ったようだ。
2日目のカップトーナメントのコンソレーション1回戦(カップ1回戦敗退勢同士の対戦)では、札幌山の手とのシーソーゲームを31-26で制した。ノーサイド直前の決勝トライは、怪我を押して出ていたリサラの一発。ここで相手を引き付けてラストパスを放ったのは今大輝。身長180センチ、体重68キロの3年生だ。
付属の青森山田中時代からサッカーで全国を目指してきた今だったが、内部進学後に退部を余儀なくされた。実家のある八戸付近の高校でサッカーを続けようかとも思ったが、ラグビー部が気になって転校するのを止めた。
「そうしたら、はまっちゃった感じです。抜いた時、相手をかわした時、トライを取った時が一番、楽しいですね」
大会最終日のコンソレーショントーナメント2回戦では、15人制の優勝候補でもある京都成章に21-34で敗れた。序盤に3トライを先取も、斉藤HCは「前半、(相手は)寝ていたんでしょう」と苦笑い。徐々に差を詰められ、後半に逆転された。今は言った。
「(後半)何点取られてもトライを取りに行こうという気持ちでいましたけど、ディフェンスの流す(列をなして待ち構える)か、詰める(一気にせり上がる)かの判断がうまく、仕掛けるタイミングを俺らで見つけられなかった」
全国との距離感を皮膚感覚で知った。成功体験も得られた。競技経験が浅いながらも躍動した今は、前向きなトーンで課題を口にした。今後は国体や全国大会など、15人制の大舞台で暴れ回りたいという。
「チャレンジャーの気持ちでやれた。楽しかった。自分たちのスピード、ステップでは通用するところもあってよかったですけど、サイズ、ラグビーの偏差値では俺たちの方が低かった。もっと努力しないとな、と思います」
斉藤HCは「まだ強化を始めて3年目のチームなので。これから対戦校さんと仲良くなって、徐々にいろんなチームへ出ていってみようかなと」。今度のアシックスカップでの出会いを機に、菅平で合同トレーニングや練習試合のできる相手を見つけたいという。この国の高校ラグビー界というサロンに、自信を持って入会した。