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【コラム】ラグビーは「小卒」競技のままか

2019.07.25
東京都中学春季大会で戦う黒いジャージの東大和市立第五中ラグビー部(撮影:野村周平)

東京都中学春季大会で戦う黒いジャージの東大和市立第五中ラグビー部(撮影:野村周平)

 

 競技人口はそのスポーツの規模を示す重要な指標の一つだ。

 日本ラグビーの選手登録者数は2019年3月で95042人。前年度比で158人減った。
日本協会はこの選手数に指導者登録数などを足した数字を、2019年度に20万人とする目標を掲げていた。実現は極めて難しい情勢になっている。

 国全体の少子高齢化が進む中、競技人口の減少はラグビーのみならず、ほぼすべてのスポーツの共通課題と言える。人気の高い高校野球ですら、硬式の部員数が5年連続で減少して、今年度は15万人を割ったことがニュースになった。

 この「競技人口問題」、ラグビー関係者からは中学生世代がボトルネックになっているという話をよく聞いていた。

 2015年のW杯イングランド大会における日本代表の奮闘もあって、小学生のラグビー人口は翌年以降、年々増えている(2015年17743人→2019年22389人)。W杯直後は子どもたちのラグビースクールへの入会申し込みが殺到した。全国の小学校のタグラグビー実施率は62%。日本協会によると、約90万人が楕円球に触れたという。

 それなのに、中学生の登録者は小学生の約半数(2019年11452人)しかいない。タグラグビーやラグビースクールで競技に親しんでも、ラグビー部を持つ中学が限られるなど、競技に打ち込める環境が少ないため、続ける子どもが減ってしまうのだ。

 この事態に日本協会が手をこまねいていたわけではない。ラグビースクールに通う中学生らが平日でも競技できる環境をつくろうと、スポーツ庁の委託事業として「放課後ラグビープログラム」を展開。W杯日本大会の12開催都市を中心に、これまで1500人超の中学生が参加した。菅平では部員数が少ない中学でも参加できるような「ジャンボリー」を開催。中学校とラグビースクールが参加する全国大会「太陽生命カップ」は今年9月で10回目となる。中学の登録者は2015年度以降、わずかながらも増えてはいる。W杯日本大会組織委員会も、競技未体験の子どもたちがラグビーに触れる機会を増やそうと、全国のラグビースクールで一斉体験会を開くなどの普及策を実施してきた。

 現場でも中学生のラグビー環境を整えたい、と奮闘する指導者はいる。

 東京・東大和市立第五中学は、同校3年目になる教員の黒崎達也さん(32)が昨年、ラグビー部を復活させた。かつて都大会で準優勝した実績を持つ同校は、公立では珍しく校庭にラグビーポールが立つ。部員数減少で近年は廃部状態だったが、大学までラグビー部に所属した黒崎さんが「ラグビーに恩返ししたい」と生徒たちを熱心に勧誘。競技経験のない部員は21人となり、単独で大会に出場できるまでになった。

 人工芝のグラウンドが整備されている都内の私立中などと比べると、土のグラウンドの五中は今時の中学生がラグビー部に飛び込みやすい環境とは言い難い。ただ、それ以上に部員集めで難しさを実感するのは、子どもたちのラグビーへの関心の希薄さに気付くときだという。

「それでも、公立中学にラグビー部があることの意味は大きいと思うんです。ラグビーの楽しさを伝える。そんな入り口のような存在になれたら」。公立の教員の常で、いつ異動の知らせが来るかは分からない。その日までにいかに持続可能なクラブをつくれるか。黒崎さんの情熱が、新生・五中ラグビー部を支えている。

 ラグビースクールや中学の部活動がもっと地域の大学やトップリーグと連携する枠組みができれば、練習環境や指導の質を充実させることができるかもしれない。W杯の会場やキャンプ地のある自治体と都道府県協会がスクラムを組めば、継続的な普及啓発が進むかもしれない。取材を通して、そんな考えが頭を巡った。子どもたちがラグビーを楽しいと思えるような下地を整え、黒崎さんのような無名の指導者たちの情熱に応えるには、日本協会をはじめとする管理者側の明確な方向性の提示や、それに伴う地道な作業の積み重ねが不可欠なのだと思う。

 新体制に移行した日本協会ではいま、清宮克幸副会長らによる新リーグ構想のほか、日本協会と加盟団体の関係性を見直し、組織統治(ガバナンス)態勢を充実させる検討が始まっている。ポストW杯における代表強化策をどうするかなど課題は山積みだが、強固な土台なしに日本ラグビーの明るい未来はない。どうすれば、子どもたちが継続的にラグビーを楽しめる環境を作れるか。足元に目を向けた施策を期待したい。

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