編集者としてその取材は毎回、いつもよりも緊張して臨むことが多い。
ラグビー専門誌のインタビュー連載「解体心書」についてだ。カメラマン、高塩隆さんが撮影を担当し、モノクロ5ページのうち3ページを丸々、写真が占める。掲載する写真は3点。雑誌の性格上、他企画に比べるとインタビューとしてはかなり写真の割合が大きい。しかも1点の意味が重い。取材における準備においても、高塩さんは毎回、さまざまなイメージをふくらませ、頭を悩ませている。
難しくまた面白いのは、場の縛りだ。
取材は撮影用のスタジオなどではなく、選手の地元、クラブハウスや会議室、学内などで行われることが多い。もちろんデジタル的な処理も行うのだが、納品された写真には、あの場所で撮ったものがこうなるか、という迫力がある。写真の素人である私にはまるで魔法だ。光の当て方、影の作り方、背景への照明、レンズの選択と寄りの度合い(レンズと選手の距離)などに職人の秘訣があるのではと思いながら、いつも撮影のお手伝いをしている(毎月担当しているのではありません)。
お手伝いと言ってもできることはほとんどない。主に機材運びと、実際に選手を撮影する前のモデル役だ。体格も何もかも、選手とはだいぶ違うのだが、準備段階でカメラの前に立って被写体の代わりをする。事前にできる調整はすべて済ませて選手を迎えるためだ。
「もうちょっと右ヒジを上げて」
「顔の向きは左」
「いや、目線だけをカメラに」
カメラの前に立つ、と書いたが、実は、走っているふうだったりかがんだり、かなり動きのあるポーズを取る。これが高塩ダイナミズム。高塩さんの写真は、ポーズ、つまり静止していながらダイナミック、とても動的な写真になるのが不思議なのだ。
撮影前のモデル役は、実はちょっと面白い。高塩さんの指示には、プレー上はありえないよ、と思えるようなものもある。それでいて写真になると選手が動いて見える。
「えっと。そのまま、右のつま先を、軽く浮かせて」
例えば、そういうオーダーがくる。
いえいえ。この重心では、右足を上げることは不可能です、高塩さん。
そう思っても、高塩さんのつぶらなまなこはまっすぐこちらの右つま先にロックされたままだ。とにかく、一瞬でもいいから上げようとしてみる。OKが出る。そして実際に選手にやってみてもらうと、それが絶妙なアンバランスさ、動きを生み出す。モデルへのオーダーでは出てこなかった、アスリートならではのニュアンスや立体感が浮かび上がってくるから不思議なのだ。
高塩さんはスポーツカメラマンとして、フィールドで膨大な数のアスリートたちをカメラで描き取っている。積み重ねたそのデッサンの力が、多分、「ありえない」オーダーの根拠だろう。時には、どうしてもそのディテールが出せずにポーズ自体を変えることもある。撮影前の撮り手は試合前の選手のよう。思考と緊張と意識されたリラックス。
今月はどんな高塩ダイナミズムが生まれるのか。その場にいても分からない魔法を、幸運な第一の読者として心待ちにしつつ、今月も一般人には過酷なポージングに励んでいる。いえ高塩さん、この体勢から右ひざはひねられませんって。
高塩さんの解体心書が、個展になりました。9月5日—11日、キヤノンギャラリー銀座にて。ぜひ皆様お運びください。