二度目の正直だ。
徳島にある四国大学女子7人制ラグビー部が入替戦に挑む。
県鳥「シラサギ」の英名(Egret)からとられた愛称「セブン・イーグレッツ」は、7人制の国内最高峰となる「太陽生命ウイメンズ・セブンズ・シリーズ」への昇格をかける。
コアと呼ばれる11チームの末に加われば、富士など年4場所開催の大会に常時出場できるようになる。
「優勝します」
2年生主将の井上藍はきっぱりと言った。
「去年は悔しい思いをしました。自分たちのプレーがまったくできませんでした」
昨年11月、入替戦出場も3連敗だった。千葉ペガサスに0−22、横河武蔵野に7−27、花園ホーリーホックには10−15だった。
四国大の創部は2017年だが、本格始動は翌年。井上ら1期生8人の入学からである。
「去年は、1年目やのにその割にはよう頑張ったね、って言われました。もう、そう言われたくありません」
ほめたつもりは、当事者には悔恨を増幅させる言葉になる。
今年52歳になる監督の山中一剛(くによし)は3連敗に関して、経験のなさを挙げた。
「びびってしまいましたね」
チームが結成され、8か月での大一番。それは、まだ10代の8人にとって、未体験の重圧になった。
大阪体育大、そして鳴門教育大の大学院でラグビーを学んだ山中は、その反省を日々に生かす。
「入替戦の時と同じような状況だと思って練習をやりなさい、と言っています」
井上も無念さを忘れていない。
「わたしも練習の最後に集まった時は、入替戦のことを話します」
今年4月には新入部員7人を迎えた。選手は15人になり、試合形式の練習ができるようになった。山中の表情は緩む。
「実戦に近いことができるようになりました」
理想とするグラウンドをフルに使うラグビーに相手がつく。その効果は大きい。ポジション獲りへ競争意識がさらなる成長を生む。
マネージャーも3人が入り、選手はより自分たちのプレーに集中できるようになった。
追い風はさらに吹く。
2期生の入学と同時に、学内に2階建てのスポーツ健康館が完成した。
その中には、50人近くが一度にトレーニングできるウエイトルームが入った。
「好きな時間に自由に使わせてもらえるのは、かなり大きいです」
井上は笑顔を浮かべる。
使用時間は午前9時から午後9時までだが、ラグビー部には10時まで1時間の延長が認められている。週末は一般開放され、学生は使えないが、その除外対象にもなっている。コンタクトが不可欠のフッカーである井上には個人的にも恩恵がある。
ミーティングができるセミナールームも館内にできた。体育学と実技の講師でもある山中の研究室もここに移る。この新築の建物によって部員たちの距離はさらに近くなる。
黒田佑美は新人だ。すでにスタンドオフやセンターで公式戦に出る。出身は愛知の栄徳高。トヨタ自動車で日本代表キャップを26つかんだプロップ・山本正人の母校でもある。
在学中に女子部を作る話があったが、最上級生の時に1年生5人が入っただけで、それは実現しなかった。
「ここでは高校の時にできなかった、チームを作る、ということができます」
風通しのよさも気に入っている。
「私は意見を言うタイプなのですが、プレー中、先輩とも言い合えるのがいいです。先輩たちも耳を傾けてくれます」
東海から関西を抜け、四国に入った黒田の冒険はハッピーに進んでいる。
四国大の2年目は順調だ。
入替戦出場を決める「リージョナル・ウイメンズ・セブンズ」の5月の関東、6月の関西の2大大会をともに制した。
決勝戦、関東大会では名古屋レディースを32−0、関西大会では日本体育大のBチームであるユニコーンズを34−5とともに大差で下した。Aチームはすでに太陽生命シリーズに参加している。
創部に力を尽くした佐野義行は目じりを下げる。
「予想以上の成果を出してくれています」
企画監から、今年は事務局長になった。学内では学長、副学長に次ぎ3番目の位置にいる。県の元教育長で、現在は県ラグビー協会の会長も兼任する重鎮が、山中をはじめ部員たちのサポートを変わらず続けている。
入替戦は7月13、14日の週末、横浜にある日本体育大の健志台グラウンドで開かれる。今年はワールドカップ優先のため、日程が凝縮され、4か月ほど前倒しされた。
参加チームは6。コア下位の2と四国大を含む4で争われ、上位2チームが昇格、あるいは残留する。
四国大学は横河武蔵野、アザレア・セブンとともにプールBに入った。このリーグ戦で2位までに入れば、翌日、4チーム構成の決勝トーナメントに進出できる。
そこで、ひとつ勝てば夢が実現する。
「今がラグビーをやって来た中で一番楽しいです。自分たちで自由にできるんです。監督は私たちに合わせてくれます」
井上は快適さを表現する。小3から南大阪ラグビースクールで始めた競技は12年目。その楽しさをさらに深めるためにも、この文月の第2週末は負けられない。