ラグビーリパブリック

スーパーラグビー王者から何を学び、どう活かしているか。「日野ピクチャー」に迫る。

2019.07.07

3年連続10回目のスーパーラグビー優勝を遂げたクルセイダーズ(Photo: Getty Images)

 国内最高峰トップリーグに昨季昇格の日野は、国際リーグのスーパーラグビーで3連覇を遂げたクルセイダーズとパートナーシップを締結中だ。関係性を深めて2シーズン目の今季は、攻撃戦術や練習内容を共有。6月開幕のトップリーグカップで成果をあげている。

 合言葉は「日野ピクチャー」。細谷直監督体制6季目の日野は、防御にタックルの的を絞らせぬクルセイダーズの攻撃システムを涵養(かんよう)。グラウンドの右中間、左中間に接点がある場合は、SHとSOの間にFWが3人1組となったユニットを作る。両端には別なFWがWTBと張り出し、相手と間合いを取ったBKラインがスペースを探す。全体が連動し、左右にパスを散らす。

 現代ラグビーのトレンドにも則した形を遂行するにあたり、細部にこだわっていると選手たちは言う。

「ただ見て真似するだけではなくて、しっかりと落とし込んでいます。ひとつひとつのディテールにこだわり、スキル練習をしてきている。いま、特にアタックでは磨いでいる段階です」

 こう語るのは、元NECでFLとして日本代表を経験した村田毅主将。HOの定位置奪取を狙う元東芝の崩光瑠も、個々の意識について話す。

「(自身の)裏に(パスを)通されるという選手も(攻撃の)オプションにならないと脅威を与えられない。ただ、ハンズアップ(パスをもらう動作)しているだけで相手は『(その選手にパスが)来るんじゃないか』と思う。ランニングコースもなぁなぁにせず、それぞれがシステムのピースとしてどんな動きをしていくか。そういういままでできていなかったことを――いまも完璧じゃないですが――皆で言い合っています」

 CTBでレギュラー入りを狙う園木邦弥は、「システムを理解してやり切れれば試合に出られるという評価のされ方ができた」のを喜ぶ。新たな軸が据えられたことで、選手選考時の基準が明確化したのだという。

「去年は何かできていないことがあっても、(チームのシステム上、自分が)どこをなぜできていないかまで突き詰められていないところがありました。ただ今年はだめだったとしても、どこでだめだったかが明確です」

日野レッドドルフィンズの細谷直監督(撮影:向 風見也)

 細谷監督はこうだ。

「表面的に絵を見ているだけではない。それを実現するのに必要なディテールにこだわり、いまの日野のメンバーに合うように(各選手のポジショニングなどを)カスタムしています。我々が現地へ出向き3週間ほど学んだり、帰国後も継続的に日頃の練習メニューをチェックしてもらったり、その内容を検証してもらったり。深い部分まで入り込んでいます」

 舶来品とも言えるシステムを机上の空論にしない工夫は、選手側でも施されている。

 他部からの移籍組が多いなか、サントリーから加入4季目でFLの佐々木隆道は「(新加入選手を迎えるのは)慣れている。ハートのいい選手ばかりが来ているので、変になることもないです。自然と皆がファミリーになれるような空気感が出てくる」。加えて園木いわく、着任2年目の村田主将が部内の風通しをよくしているという。

 レクリエーションをおこなう際も、部員たちがミニチームに分かれて各々が作戦を立てるよう習慣づける。ミーティングでも、3人1組で密に話し合う形式を採用。密なコミュニケーションで相互理解を深められるよう、音頭を取っているようだ。出身校の帝京大で大学選手権8連覇を経験した園木は、こう感謝する。

「ラグビーの時だけ集まる集団ではなく、皆がどんな考えを持っているかなどを共有するための仕掛けがあります。帝京大にはあったような『こういうことをしないと勝てないよね』というチームの文化を作ろうとしているのだと感じます。少しずつ、組織のなかでの人との関わり合いが増えてきました」

 7月6日、東京・駒沢オリンピック公園陸上競技場。一部の主力を欠きながら、下部トップチャレンジリーグの清水建設に76-12と快勝。一時は接点での被ターンオーバーに苦しめられたが、着実に加点した。

 敵陣深い位置ではFW陣のユニットが球を活かすなか、大外のエリアをFBのギリース・カカらが攻略。自陣から継続する際は崩、新加入LOの北川俊澄らFW同士のショートパスが相手防御網を切り裂いた。

 元トンガ代表主将でNO8のニリ・ラトゥ ゲーム主将は、再三ラインブレイクを決めたうえで淡々と言った。

「私はシステムの一部で。全員がシステムを遂行しきろうと意識しています」

 さかのぼって6月22日には、トップリーグカップの第1節で2015年度まで3連覇のパナソニックに29-31と迫っている。相手が日本代表組を欠場させていたとはいえ、日野がスタンドを沸かせるに十分だった。

 7月12日には、一昨季まで2連覇で今回ここまで全勝のサントリーと激突する。2勝1敗の日野がプールAで1位となるには、今度の白星は必須。細谷監督は、接点でのプレーを修正したいと述べた。

 忠誠心の塊であるラトゥは「きょうの勝利は嬉しいですが、本当の勝負は来週です」と語り、「勝ちに行く準備をしてきている」とも断言した。

「まずは一人ひとりのパフォーマンスを上げる。それぞれが準備をしていけば、サントリーに勝てる自信があります。今季、すべての選手がそんなマインドセットを植え付けています。コーチ陣は素晴らしいシステムを与えてくれ、昨季の倍以上のハードワークをしている」

 ラグビー王国から輸入したシステムは、チーム文化の形成にも役立っている。