ラグビーリパブリック

【コラム】 誰かのスター。

2019.07.04
3部・早舩晃希(東工大←桐光学園)がゴールに迫る。4部・板谷俊太郎(上・千葉大←都立青山)、西谷大吾(下・横国大←桐蔭学園)が食らいつく(撮影:山口高明)

3部・早舩晃希(東工大←桐光学園)がゴールに迫る。4部・板谷俊太郎(上・千葉大←都立青山)、西谷大吾(下・横国大←桐蔭学園)が食らいつく(撮影:山口高明)

 6月30日のお昼前。秩父宮ラグビー場に向かう道は人でいっぱいだった。

 スーパーラグビーや日本代表戦が開催されるわけではなく、行われていたのは「関東大学オールスターゲーム」。リーグ戦5部から1部、対抗戦AB、そして医歯薬リーグまでの選手たちが一堂に会する半日の祭典だ。

 沿道が「いっぱい」だったのは、観客の多くが、出場選手たちの所属する部員だったからだ。東京、神奈川、千葉、埼玉、山梨など関東一円から、基本、部員みんなが応援に駆けつけるのがオールスターのならわし。よく食べ、きっとたくさん練習し、それぞれの地でラグビーに打ち込んでいる大学生たちばかりが青山を歩くと、その体のボリュームで歩道はいっぱいになってしまう。

 苦情ではなく、頼もしく、うれしい光景だった。こんなにも多くの大学生が、いま現在を楕円球に心傾けて暮らしている。

 第1試合では、リーグ戦5部がABに分かれて対戦。7人制で7分ハーフを懸命に駆け抜ける。選手たちは、この日のチーム分けのジャージを着ながらも、パンツとソックスは所属チームのものを身につける。英国バーバリアンズ式だ。選抜に招へいされた誉れのジャージーと、日常を過ごす各クラブの誇りと少しの気負いが、プレーごとに表れて、芝の上の興奮は観る側に伝染する。

 憧れの秩父宮の芝は小雨に濡れてより鮮やか。スタンドにチームごと陣取る部員たちにも、彼らの緊張が我が事として伝わるのだろう、なん部とかAとかBとかに関係なく、拍手や歓声を送る学生たちの空気が、素晴らしかった。電話を片手に、旧友の顔を探し、手を振り合う姿もあちこちで。

 東邦大vs関東医歯薬リーグ選抜のドクター対戦も見どころいっぱいだったが、リーグ戦3部と4部のゲーム(どちらも7人制)は目を引いた。昨年は38−0で3部が順当勝ちしている、この大会唯一の上下リーグ対決。4部が先制トライを決めて、スタンドがどよめいた。

最終スコアは3部の勝ちで19−12。下克上はならなかった。

後半、勝負の時間帯、4部主将の2分間のシンビンが痛かった。カバーディフェンスに戻ったところでステップを踏まれ、腕だけが残ってしまいハイタックルに。群馬の太田高校出身、獨協大4年の津久井亮介は悔やみながらも、仲間と力を出し切った試合後は胸を張って戻ってきた。

 175センチ、75キロのサイズ。芝の上では実際より大きく見える選手がいるが、そのタイプだ。普段はCTB。スピードも、地面を踏みしめるような腰の粘りも、上体の強さもあって、7人制でプレーしていると元ポジション不明。他のメンバーと同じく、オールスターゲームにふさわしい選手だ。

獨協大を選んだのは、受験生時代の事情にもよる。一浪が決まり、自立生活をするために新聞奨学生となった。想像以上に厳しい生活だった。夜中の2時には起きて朝刊の準備、配達。7時まで働き、予備校へ。15時には夕刊準備にかかり、配達、続いて夜まで作業。

「1日に自分でできる勉強時間は2時間か3時間でした」

 ノーサイドの笑顔のままで言う。

「だから、その1年は精神の…あはは。精神の戦いでした。獨協の選択は自分のベストです」

 応募生が減り、津久井はそのコースで最後の奨学生となった。

 所属の獨協大は、昨シーズン4位。天下分け目の上位決定対戦で、入れ替え戦を賭けて東京理科大と戦い敗れた。19−26。1トライ1ゴールの差が2位と4位を分けた。その東京理科大のメンバーとも今回はチームメートだ。1年時にも出場している津久井亮介は、主将に選ばれて、理科大の1年生と2年生を含むオールスターをまとめた。

「3部に絶対に勝とう。昨日がほぼ初対面のメンバーでしたが、意思統一は自分たちの方が試合で出せていたのではないかと思います。3部は個人のフィジカルが強かった。シンビンの場面も、相手のステップに振られてしまって、自分の力不足でした」

 それぞれソックスとパンツのチームに戻って、力を蓄える夏が始まる。秋にはしのぎ削るライバルとして再会する。

 大学生の試合でメンバー表を見るとき、出身校欄を見るのが楽しみだ。

 出身校を知るとそのジャージーの色が思い出され(知らない場合は知らないなりに)、身長やポジションを合わせると、選手の背負っている原風景が見える、気がする。

 それは彼らの背景のほんの一部なのだと時どき確認させられる。想像以上に広がるその風景の持つ幅は、楕円球の世界の財産だ。この日、この催しでなくても、どこのグラウンドでも。チームのジャージーを着て戦う人は誰かのスターだ。

試合後の関東大学リーグ戦3部オールスターと4部オールスター。津久井主将は、前列左から4人目(撮影:山口高明)